「クリティカル・シンキング」の意味と鍛え方 今日から実践できる2つの能力アップ法とは?

update更新日:2022.04.20 published公開日:2018.01.31
目次
整理して考えをめぐらせているのに、成果になかなかつながらない。このような人には、多角的に考え、適切に分析する思考法であるクリティカルシンキング(批判的思考)の力が足りていないのかもしれません。
本コラムでは、この思考ができていない人の特徴を挙げながらその重要性を考えていきたいと思います。

クリティカル・シンキングとは?

昨今、ビジネスパーソンの間で注目されている「クリティカル・シンキング」。皆さんは、その意味や意義を正しく理解していますか? クリティカル・シンキングは、日本語にすると「批判的思考」と訳されることから、"粗探し"をするイメージを持ってしまうかもしれませんが、決して欠点を指摘するための思考法ではありません。「本当にこれで正しいのか」という視点を持って物事を見ることで、より正しい論理につなげていく思考法のことです。

具体例を1つ挙げてみましょう。例えば、「最近、"電話窓口の対応が悪い"というお客さまからのクレームが増えている 。顧客満足度を下げないために、電話窓口担当者の教育をするべきだ」という主張があったとします。一見、正しい論理に見え、今すぐ教育施策を検討すべきと思えますが、果たしてそうでしょうか。どの位の期間で、いくつ同様の意見をいただいたのか、またそれが過去と比べて増えているのかどうかなどを検証してみないと、この主張が適切かどうか判断することはできませんよね。

つまり、「お客様からのクレームが増えている 」と判断した背景にはどのような前提があるのか、「増えている 」とは何と比べて増えたのかなど、「本当にこの論理は正しいの?」「そもそも考えるべき課題は?」などと検証しながら正しい結論に導く思考法がクリティカル・シンキングなのです。

なぜ、クリティカル・シンキングが必要なのか?

では、なぜビジネスパーソンにクリティカル・シンキングが求められるのか――。その背景にはやはり、急速かつ目まぐるしく変化するビジネス環境への対応が挙げられます。人はどうしても、「前はこの方法でうまくいったのだから、次もうまくいくはず」と考えてしまいがちです。しかし、現代のビジネス環境においてこの考え方は通用しません。

環境の変化に取り残されないようにするには、古いやり方や考え方を捨て、これまでとは違った切り口や考え方、アイデアも時には取り入れなければならないことは、このコラムにたどり着いた皆さんならご承知のことと思います。何を捨て、何を取り入れるべきなのかを"多角的 "に見極める必要がある。またその実践によって、様々な意見・主張に対し一旦立ち止まって検証できるようになる。そのため、クリティカル・シンキングの必要性が高まっているのです。

クリティカル・シンキングとロジカル・シンキングとの違い

ここで、クリティカル・シンキングと類似の概念である「ロジカル・シンキング」との違いについて少し触れておきましょう。ロジカル・シンキングとは、「根拠から主張(結論)へと筋道を立てて考え、何らかの意味合いを得る思考 」のこと。ロジカル・シンキングを身につけることで正しい論理展開が可能となり、課題解決力が高まる。また、説得力が増すことから、ビジネスパーソンにとって必須のスキルと言われています。

ロジカル・シンキングについて詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
ロジカル・シンキングの鍛え方 ~合理的なメッセージ共有に必要不可欠な思考力~

論理的に正しいことを目指す、すなわち「論理的な整合性」を重視する点では、ロジカル・シンキングとクリティカル・シンキングに違いはありません。そのため、お客さまからしばしば、「この2つは何が違うの?」というご質問をいただきます。クリティカル・シンキングとの大きな違いは、ロジカル・シンキングは「論理的整合性が取れていれば、思考の偏りまでは検証しない」という点。仮に論理的に思考したとしても、前提が正しくないまま検討を始めてしまうと、結論が誤ったものになってしまいかねません。ほかにも、過去の成功体験に引きずられる形で思考が進むことで、論理展開に偏りが生じてしまう可能性も出てきます。

それに対しクリティカル・シンキングは、与えられた前提情報を検証し、それ以外にも情報はないか、自身の考えは偏っていないかを検証していく思考法です。つまり、思考の"偏り・不完全さ"がないかを検証する思考法として、クリティカル・シンキングが脚光を浴びるようになったということです 。

クリティカル・シンキングもロジカル・シンキングも必要
相乗効果で思考が深まる!

ここまで読んで、「あれ? ロジカル・シンキングはいらないの?」と思った方もいるのではないでしょうか。それは違います。クリティカル・シンキングとロジカル・シンキングは相反するものではなく、お互い補完し合うもの。ロジカル・シンキングだけでは前提情報が正しいのか判断できませんし、逆にクリティカル・シンキングだけでは物事を論理的に、わかりやすく組み立てていくことは困難 。クリティカル・シンキングとロジカル・シンキングの両方を身につけることで、その効果を発揮します。

そうなると、やはり気になるのはその鍛え方。ロジカル・シンキングの効果的な習得方法は、以前のコラム「ロジカル・シンキングの鍛え方 ~合理的なメッセージ共有に必要不可欠な思考力~」や「職場におけるロジカル・シンキングの必要性」 でご紹介した通りです。本コラムでは、クリティカル・シンキングに絞って、その能力を鍛える方法を見ていきます。

クリティカル・シンキングの能力を鍛える2つのポイント

クリティカル・シンキングの基本は、「前提を疑う」「思考の偏りに気づく」こと。具体的には、「根拠となる情報や事実が少なすぎないか」「情報の信ぴょう性は低くないか」と前提を疑い、「過去の成功例を使い回しているな」「リスクのある結論を敬遠しているな」というように、思考の偏りや癖を見極めることです。つまり、「前提を疑う力」を鍛え、「思考の偏りに気づく力」を養うことで、クリティカル・シンキングが実践できるようになっていきます。では、それぞれの力をどのように鍛えるのか、具体的に確認していきましょう。

1.「前提を疑う力」を鍛える

「前提を疑う力」を鍛えるために最も取り組みやすい方法は、前提の中にある"不明瞭な言葉"を探し出すことです。不明瞭な言葉とは、「方向性」「強化」といった人によって捉え方の異なる言葉のほか、「多い/少ない」「多忙/閑暇」など程度を抽象的に表す言葉のことです。まずは、以下のAさんの主張をご覧ください。

  • ミスを減らすための業務手順改定に対するAさんの主張
  • 「急な業務手順の変更でうまくいったためしがありません。
    今回は手順の変更ではなく、業務を担当する人員を増やす必要があると思います」

この「急な業務手順の変更でうまくいったためしがない」という前提の中に、不明瞭な点があることにお気づきでしょうか。この短いセンテンスの中に、2つの不明瞭な点があります。

  • (1)「急な業務手順の変更」⇒「急な」とは、どの程度なの?
  • (2)「うまくいったためしがない」⇒「うまくいく」「うまくいかない」とは、具体的にどのような状況なの?

このように、意見や主張の中に「急な」や「前回もうまくいかなかった」など、程度や状況が明確になっていない点がないか、日頃から意識して探し出すことが大切です。このほかにも、「多くの人がそう思っているから」「世の中そうなっているから」といった言葉もよく出てくる不明瞭な言葉。不明瞭な言葉を見つけたら、改めてその根拠を調べる癖をつけるのもよいでしょう。こうした訓練を重ねることで、「前提を疑う力」は高まっていきます。

2.「思考の偏りに気づく」力を養う方法

当社でお薦めしているのが、「オズボーンのチェックリスト 」を活用した訓練です。オズボーンのチェックリストとは、1つの事柄に対し、「転用」「応用」「変更」「拡大」「縮小」「代用」「置換」「逆転」「結合」という9つの視点で考えを巡らすことで、発想の転換やアイデアの創出を促す思考法のこと。固定されてしまったものの捉え方を強制的に変えるのに非常に有効で、企画会議などの場で活用されています。

クリティカル・シンキングを鍛えるという観点に当てはめると、一度出した結論について、「他にはないか」「似たものはないか」「代用できないか」などの観点で再考するなど、自分が出した論理展開に対して強制的に自問する。それを繰り返すことで、自身の思考の偏りや癖に気づくことができるようになっていきます。身近な「鉛筆」を例に考えてみましょう。

  • 「転用」:2本あればお箸になる/木材なので燃料になる
  • 「応用」:芯を足せる仕様にする
  • 「変更」:芯の色を蛍光色にする
  • 「拡大」:芯の強度を上げることで、折れにくい芯をつくる
  • 「縮小」:削らなくても芯が出続けるようにする
  • 「代用」:軸の材料をプラスチックやゴムにする
  • 「置換」:おしゃれなインテリアになるデザインにする
  • 「逆転」:書くと文字が消せる鉛筆をつくる/消しゴムで消せない鉛筆をつくる
  • 「結合」:消しゴムをつける/削りカスを掃除する機能をつける

もしかしたら、今では当たり前になっている消しゴム付き鉛筆や赤と青が一体化した色鉛筆、かつて流行したロケット鉛筆などは、このような発想を重ねて生まれたのかもしれません。ここで大切なのは、突拍子もないことでも無理やりでもいいから発想し続けること。普段は考えない切り口で思考をしたり、限界まで考え続けたりすることが、身についてしまった思考の偏りや癖を知る機会となり、また、今まで気づかなかった着眼点を引き出すことにもつながっていくのです。

日ごろの訓練が大切、実践研修でその第一歩を

クリティカル・シンキングを鍛えるイメージはつきましたでしょうか。繰り返しになりますが、不明瞭な言葉を探して「そもそもその前提は正しいのか」と考えたり、自分の考えたことについて「他の考え方はないか」と思考を広げたりと、日ごろから意識して取り組む。そうすることで、クリティカル・シンキングは誰でも鍛えることができます。

とはいえ、頭では理解していても、何かしらのきっかけがないと自身の現状を把握できず、なかなか実践につなげられないのが正直なところではないでしょうか。そんなときは、クリティカル・シンキングを体感する研修を通じて、初めの一歩を踏み出してみるというのも一手です。昨今は、クリティカル・シンキングについて知りたい、スキルを高めたいというニーズに応えるように、様々な研修・セミナーが行われています。

当社では、クリティカル・シンキングの実践をテーマにした研修 を行っていますので、自分はどの程度できているのか知りたい、具体的にどう実践していけばいいのか知りたいという方は、ぜひご相談ください。