トランジションとは?|ビジネスにおける重要性と成功させるためのポイントを解説

published公開日:2023.04.18
目次
キャリアにおける転機や転換点のことを「トランジション」と呼びます。ビジネスでは一般的に昇進や異動によって、職務の役割が変化するシーンで使われます。企業が継続して成長するには、従業員のトランジションをどう乗り越えるかが重要です。 本コラムではトランジションの定義やデザインするメリット、重要性について解説します。

ビジネスにおけるトランジションとは?

「トランジション」という言葉には、「移行・変化・過渡期」などの意味があります。ビジネス用語としてのトランジションは、アメリカの心理学者ウィリアム・ブリッジスによって「新たなキャリアステージへの準備段階」と定義されました。現在は、人材の入社や退社、昇進・昇格、異動や転勤によって、次のステージへと移る転換期という意味で使われるのが一般的です。
ビジネスパーソンはトランジションを迎えるごとに、求められる役割やレベルが変化していきます。それは業界や職種を問わず、どの企業にも共通するものです。従業員がどうトランジションを乗り越えるかが、企業の今後を左右するといってもよいでしょう。

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トランジションをデザインするメリット

従業員の乗り越えるべきトランジションを把握し、組織としてどのような援助をするか設計すること、すなわち「トランジションをデザインする」ことが企業経営にとって重要といわれていますが、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。まずは、企業がトランジションをデザインするメリットについて見ていきましょう。

スピーディーな育成が行える

あらかじめトランジションをデザインしてから実行することで、素早く無駄のない人材育成が行えます。
現在、日本では、労働力不足により多くの企業が人材確保に課題を抱えています。欲しい人材を確保するには採用だけでなく、社内でのスピーディーな人材育成が必要です。トランジションを適切にデザインすれば、従業員が転換後にパフォーマンスを発揮しやすくなります。

人材が定着しやすくなる

トランジションをデザインすることで従業員の適性把握が容易になり、人材が定着しやすくなります。

人材不足に悩む企業にとって、いかに人材を定着させるかは大きな課題の1つ。人材を採用しても、業務でミスマッチが続けば離職につながり、採用にかけた時間と手間が無駄になってしまうでしょう。人材を定着させるには、従業員が適材適所で働けることが重要です。効果的なトランジションによって様々な仕事を経験することで適性に合った職域がわかり、従業員にも長く働きたいと思ってもらえるでしょう。

組織が活性化する

戦略的にデザインされたトランジションによって人材の流れを生み出すことで、組織の活性化も期待できます。

配置転換で人材が異動すると、新しい知識や技術が他の部署や部門に広まり、今までにはない交流が生まれます。人材確保に悩む企業にとって、「この業務はあの人しかできない」という属人化された状況は避けなければなりません。トランジションで人材が持つ知識や技術を共有し、より多くの従業員が仕事の幅を広げていくことは、組織全体の活性化や能力の底上げにつながるのです。

トランジションが重要視されている2つの背景

企業がトランジションをデザインするメリットがわかりましたが、このようなトランジションが重要視されるようになってきた理由には、どのような社会的背景があるのでしょうか。トランジションが重要視されている2つの背景についてご紹介します。

予測不能なVUCA時代

感染症の流行、経済不安など、実際に誰もが予想していなかった事態が次々と起こっています。このような先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」をVUCAと呼びます。VUCAとは次の4つの言葉の頭文字です。

  • ・Volatility(不安定さ)
  • ・Uncertainty(不確実性)
  • ・Complexity(複雑さ)
  • ・Ambiguity(曖昧さ)

VUCA時代を生き抜くには、適材適所で人材を配置し、企業の柔軟性と成長できる状態を維持しなければなりません。そのために、トランジションを積極的にデザインし、積極的な配置転換が必要といわれています。

少子高齢化による人材不足

日本では少子高齢化が加速しており、今後さらに労働人口が減少する見込みです。人材不足の悩みを持つ企業は、離職率を下げ、従業員の定着率を高めることが必要不可欠です。

特に、入社直後や異動直後は、従業員がストレスを抱えやすく、離職しやすいタイミングです。従業員を適性に合ったポジションに配置できなければ、ミスマッチが起こり退職する可能性がさらに高まるでしょう。早期にトランジションをデザインして、適切なポジションに人材を配置することが重要です。

トランジションデザインモデルは10種類

人材育成で最も重要なのは、従業員一人ひとりに合った育成を実施することです。しかし、育成方針を各人に合わせて細かく変更していては、膨大な時間と労力がかかります。そこで役立つのが、トランジションデザインモデルです。

トランジションデザインモデルとは、役割ステージの転換期に着目したモデルです。社会人としてのキャリアの中で6~8回の役割転換が想定されています。トランジションデザインモデルでは、ビジネスパーソンに求められる役割を以下の10段階に分類しています。

段階 概要
1.Starter(新人・若手) 組織の一員としてビジネスの基礎を身につける段階
2.Player(一人立ちした社員) 任された仕事に取り組んでスキルの底上げを行う段階
3.Main Player(一人前の社員) 様々な工夫により、自ら設定した目標を達成する段階
4.Leading Player(主力社員) 組織業績と周囲のメンバーを牽引する段階
5.Expert(専門家) 高い専門性を発揮することを通じて、組織業績と事業変革に貢献する段階
6.Professional(第一人者) 卓越した専門性を発揮することを通じて、事業変革に道筋をつける段階
7.Manager(マネジメント) 個人と集団に働きかけて、組織業績を達成しながら変革を推進していく段階
8.Director(変革担当) 対立や葛藤を乗り越えながら、変革・改革を起こし、組織の持続的成長を実現する段階
9.Business Officer(事業変革担当) 戦略的な資源配分を通じて、自らが描いた事業構想を実現する段階
10.Corporate Officer(企業変革担当) 社会における自社の存在意義を絶えず問い直し、自社の針路を決める段階

日本企業ではStarter~Leading Playerで社会人としての基礎を固めるという考え方が一般的です。その後は直属の部下を持たないスペシャリストとしてのキャリアか、マネージャーとして部下を抱えるキャリアに進むという流れです。モデルに従って各段階に応じた育成方針を用いることで、役割転換で生じるギャップを取り除く他に、新たな役割で早期に成果を上げる際にも役立ち、効率的な人材育成が可能となります。

ビジネスにおけるトランジションの3段階

ここまで、トランジションをデザインするメリットや、トランジションデザインモデルについて説明してきました。次に、トランジションを迎える従業員の心境についてご紹介します。従業員の心境については3段階の変化があるといわれています。

第1段階:終わり

トランジションの第1段階は何かの「終わり」と定義されます。変化が起こる際には、今までのやり方や状況が終わるからです。

第1段階の終わりには、自分から何かを終えるだけでなく、外部からの強制的な終了も含まれます。強制的な終了は、多くの場合で喪失感につながるものです。しかし、終わりを迎えたことで心理的な負担を受けても、前向きに考えなければなりません。第1段階では「これまでの状況が終わった」事実を受け入れて、気持ちを切り替えたうえで前に進むことが重要です。

第2段階:ニュートラル・ゾーン

第2段階は「今までの状況が終わった」ことを受け入れる段階で、「ニュートラル・ゾーン」と呼ばれます。

ニュートラル・ゾーンでは「終わり」から「始まり」へと移行しています。これまでの体験を整理するタイミングであると同時に、自分の中で折り合いをつける中で喪失感や虚無感を依然として抱える時期でもあるでしょう。新しく始まる何かに対して模索する中で、立ち止まってしまうこともあるかもしれません。トランジションにおいて、ニュートラル・ゾーンは最も重要な段階です。ここを抜け出すには、一人になれる時間と場所を確保し、自分のやりたいことを考えるのが重要です。

第3段階:始まり

トランジションの第3段階は、ニュートラル・ゾーンを乗り越えた先にある「始まり」です。

「始まり」といっても、この段階では今後の進むべき道を自分ではっきりと決めているわけではありません。偶然の出来事や出会いによって、新たなことが始まる可能性もあります。新しい環境の中で新たな価値観や人々に出会い、心理的な抵抗が生じることもあるでしょう。しかし、始まりに恐怖や不安はつきものです。心理的な抵抗を真摯に受け止め対応していくこと、また企業側としては新しいことに取り組み始める従業員をサポートできる体制を整えておくことが大切です。

トランジションを成功させるためのポイント

トランジションを迎える従業員の心境には3段階のステップがあることをお伝えしましたが、トランジションを乗り越えていくためには、企業全体で取り組んでいくことが大切となります。トランジションを成功させるためのポイントを3つお伝えします。

必要性やメリットの理解を深める

トランジションをデザインして企業の成長を導くには、組織全体がトランジションの必要性やメリットを理解することが大切です。組織の経営層がトランジションについて理解していても、従業員が理解していなければ適切な効果は得られません。

まずは、従業員一人ひとりが自分の状況に意識を向けられるようにしましょう。「どんな業務が得意なのか」「自分が持つ知識や経験はどんな場面で役立つのか」を認識していれば、トランジションを迎えた際も新たなステージに向けた適切な行動をとりやすくなります。

無駄を省いて効率的に行う

企業を取り巻く環境は日々変化しており、従来のやり方が通じないことも増えています。古いビジネスプロセスやノウハウのままで乗り切ろうとせず、状況に応じてアップデートしていきましょう。業務における無駄なリソースを省くため、行動の取捨選択も意識するとよいでしょう。

新しいノウハウを取り入れることで、時代にあったトランジション対策の実施や業務効率の向上にもつなげられます。

研修を活かせる環境づくりをする

トランジションに関する従業員の不安を和らげるには、トランジション研修が役立ちます。実施する際は、研修の目的を従業員に理解してもらい、トランジションについて組織全体に周知しておくことが重要です。

研修の実施だけで終わらないよう、研修内容を活かせる職場づくりも行ってください。

トランジションデザインで働きやすい組織づくりを

労働人口の不足が現実的な課題となっている現在、人材を確保するには従業員の定着率向上が急務です。定着率を上げるには、トランジションを積極的にデザインすることが必要です。

昇進や異動による役割の変化は、従業員に少なからぬストレスを与えます。納得感のあるトランジションと働きやすい組織づくりに注力し、従業員の離職を防ぎましょう。

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