情報通信業編:この10年で社員の"役割"はどう変わった?
大規模調査をもとに、管理職と一般社員に求められることの変化を分析しました

2022年3月8日

ビジネスを取り巻く環境が猛スピードで変化する中、ビジネスパーソンに求められる役割も大きく変わっています。今回のレポートでは、働き方改革やDXの推進、またセキュリティ対策強化など、業界変化の激しい情報通信業に焦点を当て、管理職と一般社員に求められることがこの10年でどう変わったのか、約5,000人を対象に行った調査をもとに明らかにしていきます。

4割が役割の変化を実感するも、「わからない」が約半数

今回の調査は、2021年10月11日~12月13日にかけて実施。一般社員から管理職、役員・経営者まで、様々な立場のビジネスパーソン5,099人にご協力いただき、情報通信業からは1,319人にご回答いただきました。

本レポートでは、課長・部長・経営層・役員クラスを「管理職」、係長・主任クラスまでを「一般社員」と位置付け、情報通信業における管理職像の変化や一般社員に求められることの変化を見ていきます。

まず、情報通信業界のビジネスパーソンが自分たちの役割の変化を感じているのか、その実態から確認していきます。10年前と現在を比較し、管理職や一般社員に求められることは変わったのかを尋ねたところ、41.8%が「管理職像の変化」を感じ、また44.0%が「一般社員への期待の変化」を感じていることが明らかになりました(図1・図2)。

一方、いずれも「わからない」と答えた割合も高いことから、自身や上司・部下に求められる役割の変化を見極めている段階にいるビジネスパーソンも多いと考えられます。

(図1・図2)

今の管理職に求められるのは「コンプライアンス」や「効率性」
「対話」は他業種よりも高い傾向に

では、10年前と現在を比べてどのような変化が起きているのか。管理職像の変化から見ていきましょう。

10年前に求められていた管理職像について尋ねたところ、「トップダウンで物事を進める(74.3%)」「部下に自分の模倣を求める(61.9%)」「前例を踏襲する(60.9%)」が上位にランクインしました(図3)。一方、現在求められている管理職像は「コンプライアンスやモラルを重視する(81.9%)」「時間内で効率的に終わらせる(74.5%)」「対話を重んじる(70.5%)」が上位に。特に3位の「対話を重んじる」は、他業界と比べて高い結果となっています。

それに伴い10年前のトップ3は大きく減少。「トップダウンで物事を進める」は56.7ポイント減の17.6%、「部下に自分の模倣を求める」は55.5ポイント減の6.4%、「前例を踏襲する」は45.5ポイント減の15.4%となりました。

また、現在求められている管理職像のトップ項目である「コンプライアンスやモラルを重視する」は69.7ポイントの大幅増加。このほか、「時間内で効率的に終わらせる」は59.6ポイントの増加、「対話を重んじる」は56.2ポイントの増加となりました。

こうした変化から、情報通信業の管理職には、過度な残業をさせないなどコンプライアンスやモラルを重視し、部下と対話して効率的に仕事を進められるよう管理、調整する役割が求められるようになってきたといえるのではないでしょうか。

(図3)

しかし現場に目を向けてみると、こうした現在の管理職像に対しまだまだ実態が追いついていないようです。「現在求められている管理職像」と「現在の管理職の傾向」の差を比較したところ、「コンプライアンスやモラルを重視する(-36.0ポイント)」「時間内で効率的に終わらせる(-38.5ポイント)」「対話を重んじる(-34.9ポイント)」となりました(図4)。また、10年前から激減した「前例を踏襲する」の裏返しである「前例にないことを行う」では36.6ポイントのズレが見られ、"理想"と"現実"に30ポイント以上の開きがあることが明らかになりました。

(図3)

情報通信分野の専門家として、新たな技術へのキャッチアップが必須に?

ここまで10年前と現在の管理職像の変化や、実態とのズレを見てきましたが、ここで変化の背景を確認してみましょう。管理職像が変化した理由を尋ねたところ、「働き方(雇用形態や勤務時間・場所など)が多様化した(66.8%)」が最も多く、「市場環境が変化・複雑化した(50.4%)」「従業員満足度や従業員の働きがいを重視する世の中になった(45.0%)」も上位にランクインしました(図5)。

情報通信業界では、社員が顧客企業に出向・常駐してシステム開発に携わるケースが多くあります。その際、例えば要件の拡大・変更が生じても、納期だけは変更しなくて済むよう調整するといった顧客の要望・希望を最優先する働き方から、自社社員の満足度を高めたり、働き方に柔軟性を持たせたりする方針に重心が移ってきていることがうかがえます。

(図5)

こうした変化の中、より重視されるようになってきたスキルや知識を見てみると、「IT・デジタルに関するリテラシー(54.4%)」が最多に(図6)。情報通信分野の専門家として、新たな技術へのキャッチアップが必要になっているのではないでしょうか。また、半数以上が「マネジメント(51.7%)」を選んでいることから、社員の満足度や働き方の柔軟性を高めるうえで、ラインマネジメント力の必要性を感じているビジネスパーソンが多い実態も見えてきました。

このほか、「コーチング(42.3%)」「言語化する力(相手に合わせた表現で伝える力)(40.8%)」と回答したビジネスパーソンが4割を超え、情報通信業の管理職には、ITスキルに加えてコミュニケーション力も求められていることが明らかになりました。

(図6)

今の一般社員への期待は「個人力」より「チーム」での成果

次に、一般社員の変化を見ていきます。10年前に一般社員に期待されていたことを尋ねたところ、「定型的な業務を確実に遂行する(81.3%)」が最も多く、次いで「上位層の方針や判断をこまめに確認し、行動する(59.6%)」「個人として成果を上げる(52.6%)」となりました(図7)。

これに対し、現在のトップ3は「チームで協力して成果を上げる(76.3%)」「非定型的な業務・プロジェクト型の業務で役割を遂行する(70.4%)」「自ら現場で判断し、行動する(69.5%)」となっています。この3つは、10年前と比べていずれも大きく上昇し、「チームで協力して成果を上げる」は45.0ポイント増、「非定型的な業務・プロジェクト型の業務で役割を遂行する」は55.5ポイント増、「自ら現場で判断し、行動する」は45.5ポイント増となりました。

一方、10年前の1位だった「定型的な業務を確実に遂行する」が47.5ポイント減少し、わずか33.8%となったことなどを踏まえると、プロジェクトマネージャーや常駐先の顧客の指示に従って定型的な業務をしっかりとこなす姿から、自分で判断しつつもチームのメンバーと協力し、臨機応変に業務を進める姿勢が求められるようになったといえます。

また、他業種(情報通信業を除く全業種)の回答と比較してみると、「非定型的な業務・プロジェクト型の業務で役割を遂行する」では、他業種が50.5ポイント増のところ、情報通信業では55.5ポイント増となっています。さらに、「自ら現場で判断し、行動する」においては、他業種では39.4ポイントの増加にとどまったのに対し、情報通信業では45.5ポイントの大幅アップとなりました。情報通信業の一般社員には、DX推進のような顧客もプロジェクトマネージャーも正解を持っていない案件において、状況を見ながら自ら判断し、役割を遂行することがより強く求められるようになったといえるのではないでしょうか。

(図7)

しかし、管理職と同様、一般社員でも理想と現実に乖離があるようです。期待されている役割と実際に担っている役割を比較したところ、その差は「チームで協力して成果を上げる(-22.5ポイント)」「非定型的な業務・プロジェクト型の業務で役割を遂行する(-37.7ポイント)」「自ら現場で判断し、行動する(-34.6ポイント)」という結果になりました(図8)。期待されている役割で4位に入った「周囲を巻き込みリーダーシップをとる」でも、理想と現実に36.1ポイントの差が見られ、チームの中でどう働くのか、どのようにして自分で判断しリーダーシップをとっていくのかといった課題があると推察されます。

(図8)

一般社員に必要なのは、ITについて「伝える」力?

では、一般社員に求められることが変化した背景には、どのような要因があるのでしょうか。変化の理由を尋ねたところ、「状況の変化が早くなった(56.9%)」が最多となり、2位以降は「チームメンバーの特性やレベル感が多様化した(41.2%)」「顧客やマーケットのニーズが多様化した(40.6%)」と続きました(図9)。

(図9)

また、こうした変化の中、一般社員に求められるスキルや知識にも変化が現れているようです。10年前と比べて重視されるようになった項目は、「IT・デジタルに関するリテラシー(65.0%)」が最多となり、次いで「言語化する力(相手に合わせた表現で伝える力)(57.6%)」「タイムマネジメント(56.1%)」と続きました(図10)。ITが様々な業務で活用されるようになったことで、IT部門や情シス部門以外の人たちとも接する機会が増え、誰にでもわかりやすく伝える力が重要視されるようになったと考えられます。

(図10)

まとめ

今回の調査から、情報通信業における管理職と一般社員に求められることは、この10年間で大きく変化したことが明らかになりました。

例えば従来の管理職には、トップダウンで指揮しつつ部下に背中を見せる役割が求められていましたが、現在は効率性と対話を重んじるボトムアップで物事を進めることが求められるようになりました。また、従来の一般社員は、明確な役割分担やタスクをもとに1人で確実に業務をこなすという姿が一般的でしたが、現在は非定型的な業務を進める中で、自ら現場で判断し、かつチームで協力することが求められるようになっています。

しかし、実態は追いついていません。管理職ではトップダウン・前例踏襲型の業務遂行を続けている人もまだまだ多く、一般社員では定型業務の遂行にばかり従事している人が多く見られます。このような実態との乖離の要因の1つとして、10年前に求められていた管理職・一般社員のままでいても、目の前にある仕事を推進できてしまうことが挙げられます。このままでは当然、管理職も一般社員も「現在求められている姿」に変わることはできません。共通の目的・目標に向かって、メンバー同士が対話しながら成果物をつくり上げていく仕事の進め方へと変化するための「意識変革」と「行動変容」が求められるということです。

意識変革も行動変容も、すぐに実現できることではありませんが、まず第一歩として、管理職・一般社員を含めてチームメンバー全員がお互いの強み・弱みや人となりを知る、一人ひとりが伝える・聞くというコミュニケーション能力を高める、そして、直接的なコミュニケーションの頻度を上げるといった取り組みから始めてみてはいかがでしょうか。

調査概要

調査対象者 当社が提供する研修(会場型・オンライン型)、オンライン講演の受講者
調査時期 2021年10月11日~2021年12月13日
サンプル数 <情報通信業のみ>1,319人 <他業種(情報通信業以外の全業種)>3,780人
属性 <情報通信業のみ>
(1)年代
20代以下 604人(45.8%)
30代 332人(25.2%)
40代 242人(18.3%)
50代 106人(8.0%)
60代以上 7人(0.5%)
不明 28人(2.1%)

(2)役職
一般社員(非管理職) 1,188人(90.1%)
└一般社員クラス 922人(69.9%)
└係長・主任クラス 260人(19.7%)
└その他(専門職・特別職など) 6人(0.5%)
管理職 117人(8.9%)
└課長クラス 81人(6.1%)
└部長クラス 30人(2.3%)
└経営層・役員クラス 6人(0.5%)
不明 14人(1.1%)

(3)従業員数
100人以下 314人(23.8%)
101人~300人 592人(44.9%)
301人~500人 148人(11.2%)
501人~1,000人 152人(11.5%)
1,001人以上 65人(4.9%)
わからない 37人(2.8%)
不明 11人(0.8%)
<他業種(情報通信業以外の全業種)>
(1)年代
20代以下 887人(23.5%)
30代 1,006人(26.6%)
40代 1,055人(27.9%)
50代 663人(17.5%)
60代以上 83人(2.2%)
不明 86人(2.3%)

(2)役職
 一般社員(非管理職) 2,997人(79.3%)
 └一般社員クラス 2,029人(53.7%)
 └係長・主任クラス 921人(24.4%)
 └その他(専門職・特別職など) 47人(1.2%)
管理職 744人(19.7%)
 └課長クラス 545人(14.4%)
 └部長クラス 172人(4.6%)
 └経営層・役員クラス 27人(0.7%)
不明 39人(1.0%)

(3)従業員数
100人以下 915人(24.2%)
101人~300人 1,624人(43.0%)
301人~500人 470人(12.4%)
501人~1,000人 267人(7.1%)
1,001人以上 376人(9.9%)
わからない 86人(2.3%)
不明 42人(1.1%)

(4)業種
製造業 758人(20.1%)
卸売業,小売業 663人(17.5%)
サービス業(他に分類されないもの) 519人(13.7%)
学術研究,専門・技術サービス業 249人(6.6%)
建設業 243人(6.4%)
不動産業,物品賃貸業 201人(5.3%)
その他、不明 1,147人(30.3%)


*本調査を引用される際は【ALL DIFFERENT株式会社「情報通信業の社員に求められることの変化に関する調査」】と明記ください

*各設問において読み取り時にエラーおよびブランクと判断されたものは、欠損データとして分析の対象外としています

*構成比などの数値は小数点以下第二位を四捨五入しているため、合計値が100%とならない場合がございます

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