アサーティブ|自他を尊重して的確に伝える技術

update更新日:2023.03.10 published公開日:2022.01.13
目次
アサーティブとは、自他を尊重して相手に自分の意見や要望を伝えるコミュニケーションのことです。 本コラムでは、アサーティブコミュニケーションが身につくよう4つのプロセスに分解し解説しています。ぜひ参考にしていただき、ビジネスの現場でアサーティブコミュニケーションを活用してみてください。

アサーティブとは

アサーティブ(assertive)という言葉は、「自信のある」「積極的な」という意味の形容詞です。

NPO法人アサーティブ ジャパン代表理事の森田汐生さんによれば、「アサーティブとは相手も尊重したうえで、誠実に、率直に、対等に、自分の要望や意見を相手に伝えるコミュニケーションの方法論」とまとめられています。

アサーティブコミュニケーションの意味

アサーティブコミュニケーションは、「言いたいけれど言えない」ではなく、「言いたいことを言える」ようになるコミュニケーション術。つまり、アサーティブコミュニケーションとは、言いたいことを飲み込むことでもなく、自分の主張ばかりを押し付けることでもありません。

特に日本人は他国の人に比べ、何かイヤなことがあった際に、心の奥底では頭にきているのに、その感情を表に出せず、飲み込んでしまう人が多い、とよく耳にします。 「ハッキリとは言わないけど察してほしい」という日本人独特のコミュニケーションスタイルは、時としてビジネスの現場では誤解を招いてしまう可能性もあります。

ビジネスシーンにおいては、グローバル化やダイバーシティの波が起こっています。いわゆる日本的なコミュニケーションが通じないことも増えてきますので、アサーティブコミュニケーション能力を身につけておけると良いでしょう。

アサーティブコミュニケーションをおこなうメリット

では、「言いたいことを言える」コミュニケーション術であるアサーティブコミュニケーションが、ビジネスにおいてどのようなメリットがあるかを紹介します。

コミュニケーションスキルの向上

まず、アサーティブコミュニケーションを意識することで、相手を尊重するコミュニケーションができるようになり、従来よりも人との接し方が洗練されていきます。それまでに身につけた対人スキルでは、相手を怒らせてしまったり、上手く要望を伝えられなかったりした経験がある、という方でも、アサーティブコミュニケーションが上達すれば良好な対人関係を構築することができるでしょう。

仕事が円滑に進み生産性が上がる

部下への指示や上司への報告、クライアントへの要望など、さまざまな場面でアサーティブコミュニケーションが役立ちます。意図を簡潔かつしっかりと伝えることができるので、仕事の効率が上がり、生産性が向上するでしょう。また、依頼先となる相手のことも尊重した進め方ができるので、チームメンバーや他部署の同僚、取引先など、自分だけでなく周囲の生産性向上に貢献することも期待できます。

働きやすい職場環境の構築

円滑なやり取りができるようになるため、職場での対人関係が良くなります。仕事を辞める大きな理由が人間関係と言いますから、アサーティブコミュニケーションを身につけることでそうした悩みが減らせるでしょう。良いことも悪いことも、相手を尊重して伝えることで関係性が悪くなる心配も少なくて済みます。少し注意しただけで部下が辞めてしまう、上司が現場のことをわかってくれない…といったモヤモヤは、アサーティブコミュニケーションを意識することで改善できるかもしれません。

アサーティブコミュニケーションを身につけるポイント

アサーティブコミュニケーションを身につけたいと考えているなら、以下のポイントを普段の会話でも意識してみましょう。コミュニケーション能力は一朝一夕で身につくものではありません。コツコツとした積み重ねが大切です。

誠実さを持つ

自分の言葉に嘘が無いようにすることと合わせて、相手の発言に対して誠実な態度を取るようにしましょう。例えば、部下からのミス報告の際に、ミスをされてどういった気持ちなのか・どういった対処法があるのかなどを冷静に伝えます。また、部下の謝罪の気持ちを誠実に聞きましょう。叱責したり激高したりするのはアサーティブコミュニケーションとは言えません。

また、自分の意見を言わずに相手の要望ばかり汲むのも、自身への誠実さが欠けているのでNG。NOと言えるようになりましょう。

率直な言葉と気持ちで

率直さとは、言い訳をしたり、回りくどい言い回しを使ったりしないこと。自分が伝えたいことを率直に話しましょう。相手が話しを理解しやすいように要点をまとめて話すようにするのがコツです。また、何かを伝える時にやりがちな「みんながそう言っていました」のように、主語を自分以外にするのも遠回しな言い方とされています。もちろん、場面によっては婉曲な表現が有効なこともありますが、使い過ぎには注意すべきでしょう。

相手と対等な立場で

ビジネスの場においては、上司と部下・経営者と従業員、社内と社外など、いろいろな立場にある人たちとコミュニケーションを取ります。アサーティブコミュニケーションでは、相手がどんな立場であっても自分の意見や主張を変えないことが求められます。また、自分の立場が上だからと意見を押し通そうとしたり、下だからと意見を飲み込んだりするのも良くありません。同じ人間同士、対等な立場であると認識することが大切です。

発言には責任を持つ

誠実さにも通じますが、自分が発した言葉には責任が発生します。「○○をやります」と伝えたのならやり通しましょう。また、自分の意見が通らなかった時でも、相手とやり取りを交わして出た結果なのであれば、双方に責任が生じます。失敗してしまった時に、「あの時言ったのに」「実はそうなると思っていた」のような対応はアサーティブコミュニケーションとは言えません。

アサーティブコミュニケーションとDESC法

DESC(デスク)法と呼ばれる手法を用いると、アサーティブコミュニケーションを実践しやすくなります。
DESCは、Describe(事実の描写)、Explain(気持ちの説明)、Specify(提案)、Choose(行動の選択)の4つからなる言葉。それぞれについて解説します。

Describe(事実の描写)

Describeは、客観的な事実に焦点をあてて描写することを指します。月間売り上げ目標を達成した・ミーティングに5分遅れてきた・雪によって電車が遅延して出社できなかった、など起こった事象を客観的にわかるように伝えます。

例えば、「ミーティングに5分遅れた」は事実ですが、「やる気がないから遅れた」は事実とは言えません。勝手な決めつけをしてしまうと、コミュニケーションミスが生じやすくなるためです。客観的かつ事実のみ、を意識しましょう。

Explain(気持ちの説明)

Describe(事実の描写)に対する気持ちを伝えるのがExplain(気持ちの説明)ですが、感情的になったり、攻撃的になったりしないことが鉄則。相手に説明するように、自分の気持ちを言葉にしてみましょう。ネガティブな話題でどうしても感情が高ぶってしまう場合は、場をし切りなおして対応するなど、冷静な対応ができる環境を用意するなどの対応が有効です。

Specify(提案)

Explain(気持ちの説明)で心情を説明したら、次は相手に提案(Specify)します。相手にどうして欲しいのかを、具体的に伝えましょう。具体的というのは、相手がどんな行動をすればよいかが明確であるということを指します。

例えば、ミスをした部下に対して「気をつけてくださいね」と伝えるのは具体的ではありません。「ミーティングに遅れそうなときは参加者に連絡してください」のように現実的な提案を明確に伝えましょう。

なお、Specifyは文献等によっては同じ意味をもつSuggestに置き換えられる場合もあります。

Choose(行動の選択)

Specify(提案)で出した案は、あくまで自身の考えです。相手は承諾するかもしれないですし、拒否するかもしれません。また、回答がもらえないこともあるでしょう。そんなとき、相手の「YES,NO」それぞれに対して「YES」ならこうする、「NO」ならこうする、という「行動の選択肢(Choose)」をあらかじめ決めておくとよいでしょう。提案した際の相手の回答、反応に対して「その回答だとこういう行動が必要になりそうですね」と提示してあげることで、相手は提案の全体像をつかむことができますし、会話の後に行うアクションも明確になります。

例えば、「ミーティングに遅れそうなときは参加者に連絡してください」という提案に対して相手がYesならそのまま良いでしょう。

ただ、相手があまり納得していない、YESという回答が得られないといったときには「忙しいと思うので事前連絡がない場合も議事録等で状況共有はしますが、事前連絡があればミーティングの参加者を待たせることなく会議を始められるので、できる限り事前連絡をお願いします」といった「行動の結果」を伝えてあげましょう。

こうしたことから、DESC法のCは「Consequences(結果を伝える)」 だとする文献もあります。


では、どうやったら相手を尊重しながら誠実にモノを伝える、アサーティブコミュニケーションを身につけることが出来るでしょうか。プロセスを4つに分けて整理してみましょう。

アサーティブコミュニケーションのプロセス

(1)相手の気持ちを考える

まずは、相手の気持ちを考えることです。
アサーティブコミュニケーションでは『相手が悪いという前提』で考えないことが大切です。
アサーティブは「自他を尊重した自己主張」なので、相手と自分、双方の気持ちを尊重して考えるようにしましょう。

(2)客観的に伝える

自分の感情を前面に出す、主観で伝える。アサーティブではこれが一番良くない例です。

主観で伝えると、伝えたことが事実に基づいた内容であっても、相手は感情的になりやすく、受け入れてもらうどころか口論になることもあるでしょう。

客観的な事実を伝えれば、相手のことを否定していないので、相手も言葉を受け入れやすくなるはずです。

(3)相手の話を聞く

客観的に伝えた後は相手の話に耳を傾けましょう。

もし相手の話に納得がいかない場合も一度は相手の言い分を受け止め、話を遮らないことが重要です。

特にビジネスの場では話を遮るのではなく、「おっしゃる通りです」「そうですね」などとあいづちを打ったり、相手の言葉を反復したりすることで、相手に『話をしっかり聞いてもらえている』と感じてもらいやすくなります。

(4)論点を整理して伝える

相手の話をしっかり聞くと「相手の言い分、論点」がわかります。ここで、しっかり論点を明確に理解しておかないと、こちらの主張の論点もずれてしまうため、有益なコミュニケーションになりません。

相手の言い分をしっかり理解したうえで、「あなたのお考えはよくわかりました。確かにそういう考え方もあるかもしれませんが、私はこうすべきだと思います、なぜなら・・・」と整理して伝えるようにしましょう。

アサーティブコミュニケーションはビジネスの場で必要不可欠

ビジネスの現場では、対お客さま・部下・上司など、あらゆる場面でアサーティブコミュニケーションが必要不可欠です。DESC法や、アサーティブコミュニケーションのプロセスを思い返していただき、相手を尊重しながらしっかりと自分の意見を述べられるようになれると良いでしょう。

「社員や部下にアサーティブコミュニケーションを身につけさせたい」という方はぜひこちらの研修をご覧ください。

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