生産性向上の鍵「ビジネス読解力」とは

update更新日:2023.10.18 published公開日:2022.10.14
目次
ビジネスにおける「生産性」は、企業が投入した経営資源(時間や人材、資本金など)に対して、どれだけの成果を生み出すことができるか、の指標のことをいいます。近年では人手不足や働き方改革といった社会的背景から、人材や時間といった資源は「有限」で「貴重」なものという認識が高まり、「生産性」向上の取り組みは企業の最重要課題の一つとされています。

「生産性」低下を招く「手戻り」「クレーム」

生産性の低下を招く要因に「手戻り(rework)」と「クレーム(claim)」があります。手戻りやクレームには生産性低下以外の様々な問題を引き起こす危険性もありますが、ここでは生産性低下にしぼって考えてみましょう。

まず、「手戻り」は作業工程の途中で問題が発生したために、前の工程に戻ってやり直すことを指します。ミスや不具合を修正する工数が発生することはもちろんですが、手戻りの規模や発生頻度によっては、納期遅延や予算超過を引き起こすこともあります。

次に「クレーム」です。もともとは損害賠償請求や特許権主張といった公的・法的行為のみを指す言葉だった「クレーム(claim)」ですが、現代日本では「苦情(complain)」の用途まで包含した、広く企業活動に対する意見や不満を発信する行為を指す言葉として用いられます。クレームは企業にとって「顧客不満足」がどの場面で発生しているのかを知るための貴重な情報源です。しかし、企業活動を左右する大問題に発展する危険性を秘めているため、多くの時間や人材がクレーム対応に投入され、クレームには迅速かつ慎重な対応が求められます。

業務に不慣れな社員はこうした手戻り、クレームを招くミスを起こしやすいものです。そして、発生したミスのチェックに優秀な社員や上司の時間が割かれてしまうことも組織としての生産性を低下させる要因となります。

コミュニケーションのズレは「情報を正しく捉える力」不足にも原因が

では、社員が手戻りやクレームを招くミスをしてしまう原因にはどういったものがあるでしょうか。おそらく、下記のような原因を思い浮かべる方が多いかと思います。

①業務を担当している社員に、知識・スキルが不足していた
②上司に、部下の業務進行を管理・監督する能力が不足していた
③そもそも、社員やチームに課せられた業務量や難易度が遂行可能レベルを超えていた

確かに、上記のような原因で手戻りが頻発したり、大きなクレームを引き起こしたりしている実例もあるでしょう。しかし、実は上記3つと同程度、またはそれ以上に重要な原因があるのです。

④業務を担当している社員に、「情報を正しく捉える力」が不足していた

業務を担当している社員、特に若手社員は「上司の指示」のもとで業務に取り組みます。また「取引先や顧客の依頼」から業務がスタートする場合もあるでしょう。この指示や依頼には、目的や納期、仕様や注意事項といった重要情報が含まれています。こうした重要情報を正しく捉えることができないと、指示や依頼をした側が期待した通りの成果を上げることはできません。結果、手戻りやクレームを招いてしまうのです。 また、①②③は業務上のプロセスの問題といえますが、④は業務プロセスに入る前の指示・依頼時のコミュニケーションのズレに問題があるといえます。④の時点で問題があると、たとえその後のプロセスが適切だった場合でもミスにつながる点で①②③よりも危険度が高いといえるでしょう。 コミュニケーションは発信する側と受信する側の相互関係があって成り立つものです。発信する側に「伝える」スキルが求められるのはもちろんですが、それと同等かそれ以上に受信する側にも「正しく捉える力」が求められます。当社が行った社会人向けのアンケートでは、回答者の9割以上が「情報が正しく理解できないことで社内に問題が起きている」と回答されました。

「情報を正しく捉える力」を支えるのは「読解力」である

契約書、覚書、決算報告書、注文書、仕様書、設計図、メール、チャット、マニュアル、議事録...。ビジネスには多種多様な「文書」が登場します。こうした「ビジネス文書」から、情報を正しく捉えることができているかどうかはとても重要です。コロナ禍で対面でのコミュニケーションが制限されたことにより、文書を用いたコミュニケーションはより一層、登場場面が増えました。

そして、近年ではこうした社会的背景をとらえ、企業、教育機関等に向けて「文書」を介したコミュニケーションで「情報を正しく捉える力」を養うプログラムやサービスが登場しています。その一つが、基礎的読解力の測定テストである「リーディングスキルテスト」(一般社団法人 教育のための科学研究所)です。

「リーディングスキルテスト」(以下、RST)は、毎年10万人以上*の受検者数を誇る読解力測定テストです(*2022年9月実績)。義務教育課程の教科書や日本三大新聞、地方新聞に行政文書、法律の文章などから出題され、社会人として必須の読解力がどの程度身についているかを下記の7分類ごと客観的に測定します。

●係り受け解析 ...文の構造を正しく把握する。読解力の最も基礎となる能力
●照応解決  ...代名詞が何を指しているかを正しく認識することができる
●具体例同定(辞書) ...辞書の定義を用いて新しい語彙とその用法を獲得できる
●具体例同定(理数) ...理数的な定義を理解し、その用法を獲得できる
●同義文判定 ...与えられた二文が同義かどうかを正しく判定する。語彙力や論理力が必要。
●推論 ...既存の知識と新しく得られた知識から、論理的に判断する。
●イメージ同定 ...文と非言語情報(図)を正しく対応づける。

たとえば、「照応解決」が苦手だと測定された方は、「あれ、これ、その...」といった代名詞が何を指しているかを正しく認識する能力に乏しく、上司から指示を受けても指示の中の代名詞が何を指しているのかを正しく認識できていない可能性があります。また、具体例同定(理数)やイメージ同定は、数値や図表、グラフを交えた文書から正しく情報を読み取る能力を測ります。契約書、注文書、見積書やプレゼン資料、設計図など様々な場面で必須となるスキルといえるでしょう。

すでに全国の教育機関や企業でも、RSTの運用とその結果を活かした組織開発・人材育成の取り組みが広がっています。社員の読解力の長所・短所が明らかになることで、例えば「社員誰もが理解できる安全マニュアル」の策定や「推論が苦手な社員に向けた論理的思考法の特別研修」など、適切な育成施策ができるようになります。

生産性向上の鍵は「ビジネス読解力」の「見える化」から

ここで、皆さんにひとつお伺いします。あなたの部下が「指示通りに仕事を完遂できず、手戻りを発生させ、生産性を低下させてしまった場合、あなたはどのような指導をし、どのように改善を講じますか?

この時、「しっかり指示を聞いてください」「マニュアルをちゃんと読みましたか?」と声をかけるだけの指導では真の改善に至らない可能性があります。なぜなら、部下の方は自分では「指示をしっかり聞いた」し、「マニュアルもちゃんと読んだ」と思っているからです。

RSTを開発された、一般社団法人 教育のための科学研究所 代表の新井紀子先生によれば、多くの人が自分には読解力が備わっていると思い込んでおり、実際にコミュニケーションのズレで問題が起こっていても、原因が読解力不足であるとは認識しにくい傾向があるそうです。そのため、「しっかり」や「ちゃんと」という指導では「自分に改善すべき問題がある」という自覚につながりにくいのです。

新井先生は「RSTは読解力の得意分野と苦手分野を見える化できるところに価値がある」ともおっしゃっています。社員がなぜ指示を理解できなかったのか、マニュアルのどこを読み取れなかったのかを測定することで、社員は自分の読解の苦手分野を自覚し、上司は部下の得意分野に即した形で業務指示をすることができるようになります。また、上司と部下の双方がスキルを把握していることで、適切な指導と評価ができるようになります。「しっかり」や「ちゃんと」などの曖昧な改善指導ではなく「照応解決は優秀ですね、でも推論はまだ課題があるので、論理的思考法の研修を受けてみませんか?」といった着実かつ効果的な育成施策につなげることができるのです。

生産性を低下させない組織を作るためには、まずメンバーの「ビジネス文書を読解する力」、つまり「ビジネス読解力」を見える化し、メンバー一人ひとりにあったコミュニケーションと、一人ひとりの苦手を補強する育成施策をとることが大切です。

当社で支援できること 測定と実践のトータルサポート

先述の通り、読解力は自己認識が困難なスキルです。そのため、コミュニケーション能力に課題感を覚えた方の多くが「プレゼンテーションスキル」や「ビジネスライティング」といった、情報を発信するスキルを強化しようと考えがちです。しかし、実際には情報を受信する側が課題をもっているケースも多く見られます。特に、ビジネス文書に不慣れな若手社員は読解力に課題があり、情報を正しく読み取れずにミスしてしまい、手戻りやクレームを引き起こすことも多いでしょう。

ALL DIFFERENT株式会社では、こうしたコミュニケーションのズレを防止する「ビジネス読解力トレーニング」を提供しています。「リーディングスキルテスト」を用いたビジネス読解力の測定と、測定結果の確認、さらには結果に応じたトレーニングまで一貫してサポートします。測定後のトレーニングはRSTのテストスコアに合わせてレベル別にご用意しているため、社員一人ひとりの苦手分野を着実に補強することができます。

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