経営者の深く切実な悩み -誰に事業承継するのか-

published公開日:2018.01.25
中小企業が「後継者不足」により廃業に追い込まれているという例が少なくないのをご存知ですか?経営者の高齢化がますます進む中、事業を継続させるために、早期の後継者選定や候補者となる人材の育成が重視され始めています。今回のコラムでは、日本の経営者の実情と後継者育成の必要性について考えたいと思います。

高齢化が進む日本の中小企業経営者

経営者の深く切実な悩み -誰に事業承継するのか-|人材育成コラム_4

日本の65歳以上の高齢者人口は、「団塊の世代」が65歳になった2015年に3,392万人となり、高齢化率(総人口に占める高齢者人口の割合)は26.7%となりました。高齢者人口は「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には3,677万人に達すると見込まれており、その後も増え続けると言われています。
高齢化は日本の中小企業でも同じように進んでいます。帝国データバンクの調査によると、経営者の中心年齢は2015年に66歳となり、この20年で19歳上がりました。これまでと同じ割合で経営者の高齢化が進めば、2025年には中心年齢が75歳と、経営者の多くが後期高齢者という状況になってしまいます。

図1 中小企業の経営者年齢の分布(年代別)

中小企業の経営者年齢の分布(年代別)|人材育成コラム_5
(出所)中小企業庁「2017年版中小企業白書」

こういった状況にも関わらず、事業承継(経営者交代)はうまく進んでいません。
図2は経営者の年齢別にみた事業承継を予定している時期に関するグラフです。ここから、60歳代以上の高齢の経営者でも、事業承継を3年以上先のことと考えている方が多くいることがうかがえます。
また図3は、経営者の年齢別にみた事業承継の準備状況を示したグラフです。事業承継の準備を「(あまり)していない」「全くしていない」「必要を感じない」と回答している経営者が、60歳代で58.2%、70歳代で47.1%、80歳代で40.5%にも及びます。

図2 経営者の年齢別事業承継の予定時期

経営者の年齢別事業承継の予定時期|人材育成コラム_6
(出所)中小企業庁「2014年版中小企業白書」

図3 経営者の年齢別事業承継の準備状況

経営者の年齢別事業承継の準備状況|人材育成コラム_7
(出所)中小企業庁「2014年版中小企業白書」

これらのことから、高齢の経営者の中には、事業承継がまだまだ自分ごとになっていない、それゆえに事業承継のための準備も十分に行っていない方が相当な割合で存在している、ということが分かります。

では、このような事業承継に対する考え方は、どのような問題を生んでいるのでしょうか。 事業承継のためには、後継者の選定やその育成、その他経営的・事務的な手続き等多くの準備が必要となります。そのため、いざというときに事業承継できないという企業が多く発生し、結果、会社をたたまざるを得ない状況をうんでしまっているのです。

黒字なのに事業存続の危機!?

事業承継がうまく進んでいないことは、廃業企業の状況からも分析することができます。 中小企業庁によると、2013年から2015年までの期間で休廃業・解散した企業のうち、データをとることのできた企業で分析したところ、約半数もの企業は黒字にもかかわらず廃業してしまいました。

図4 休廃業・解散企業の売上高経常利益率

休廃業・解散企業の売上高経常利益率|人材育成コラム_8
(出所)中小企業庁「2017年版中小企業白書」

また、この黒字の廃業企業を経営者年齢別にみると、約7割の企業の経営者年齢が60歳以上です。黒字にも関わらず、なぜ廃業するのか。その大きな要因の一つが、経営者の高齢化なのです。

図5 休廃業・解散企業の経営者年齢(黒字企業・高収益企業)

休廃業・解散企業の経営者年齢(黒字企業・高収益企業)|人材育成コラム_9
(出所)中小企業庁「2017年版中小企業白書」

野村総合研究所が実施したアンケート調査によると、自分の代で廃業したいと考える経営者のうち、21.1%が「適当な後継者が見つからない」という理由を挙げています。「息子・娘に継ぐ意思がない」(25.2%)という理由と合わせると、実に半数近い46.3%の経営者が、後継者不足を理由に廃業を考えているのです。
日本企業の99.7%、雇用者数の70%を占めるのは中小企業です。日本経済を支えているともいえる中小企業が、「後継者がいない」という理由で廃業に追い込まれているというのが現実なのです。後継者不足による黒字廃業問題をこのまま放置すると、経済産業省の試算では、2025年までに約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)を失う可能性があるということが明らかになっています。このような事態に陥らないよう、企業として何か先手を打つことはできないのでしょうか。

後継者育成の施策「サクセッションプラン」とは

後継者不足を回避し、より優秀な人材を育成・確保するために、近年、企業が取り組み始めている施策が「サクセッションプラン」です。
サクセッションプランとは、次世代の経営幹部・リーダー候補を育成する後継者育成計画のことです。もともとは経営トップ(CEO)の後継者を選定・育成することを指していましたが、今では経営幹部や管理職といった企業経営にとって重要なポジションの候補者全般の選定・育成のことを指しています。

サクセッションプランは、次のようなプロセスで進めます。

  • 1. 経営理念・経営戦略の明確化
  • 2. 戦略実行に重要なキーポストの特定
  • 3. キーポストに求められる人材要件の明確化
  • 4. 候補者の選定
  • 5. 候補者の育成計画の立案・実行

サクセッションプランが一般的な人事異動や後任登用と異なる点は、「事業計画に基づき、事前に候補者を選定し、時間をかけて育成する」という点です。従来の人事異動とサクセッションプランの異なるポイントを「目的やタイミング」「候補者の育成期間」「候補者の検討範囲」「候補者の選定基準」の観点から以下にまとめました。

1つ目の目的やタイミングに関して、従来型の人事異動・後任登用では、特定のポジションの後任が必要になったタイミングで補充する、というケースが大半を占めているようです。一方サクセッションプランでは、早い段階で後継者リストの作成と候補者の育成を実施し、最適なタイミングで配置するという特徴があります。
2つ目の候補者の育成期間に関しては、従来型の人事異動では短くて数カ月、長くても1年ほどが一般的でしょう。サクセッションプランでは短くても1年、長いものだと10年以上を期間としているものもあるなど、育成期間にも大きな違いがあります。
3つ目の候補者の検討範囲に関しては、従来型の人事異動では直属の部下や似たようなポジションで活躍している現職者を検討するケースがほとんどかと思います。一方サクセッションプランでは直属、自部門問わず部門や階層をまたいで幅広く検討する点が特徴です。
最後に、候補者の選定基準に関しては、従来型の人事異動では仕事ぶりや人事評価など過去の評価を基準にしますが、サクセッションプランでは今後の事業とのマッチングや成長への期待を基準とします。

いかがでしょうか。従来型の人事異動や後任登用とサクセッションプランの違いや、それぞれの特徴はご理解いただけましたでしょうか。

繰り返しになりますが、サクセッションプランは事業の存続と発展を目的とする施策です。よって、育成計画の実行においても、一般的な人事部主導の研修ではなく、経営層の高い関与のもと進められます。サクセッションプランの候補者は、経営理念やビジョンを正しく理解し、経営者としての意識を高めていくと同時に、経営に必要な知識・スキルを獲得することが求められます。候補者の経営者としての意識を高めるには、経営者自らがビジョンや理念、経営者としての心構えなどを伝えることが最も有効な方法といえます。一方、経営に必要な知識・スキルの獲得については、現場の業務経験や課題解決経験から学ぶことが最も効果的な方法ですが、経営者からスキルを伝承したり、研修や他社事例などから基礎的な知識や最新の事業成功ノウハウなどを常にインプットしたりすることが求められます。

今回は、日本の事業承継についてお伝えをしてまいりました。日本の経営者の実情や、それに伴うリスクなどはご理解いただけましたでしょうか。

事業継承やサクセッションプランをご検討されている企業に、本日のコラムが少しでもお役に立てる情報となれば幸いです。