「各業界で活躍されているあの人は何がすごいのか?」をコンセプトに、各業界の有識者から“成長の秘訣”や“仕事論”を赤裸々に語っていただくHR×LEARNING スペシャルセミナー。2023年6月26日開催のセミナーには、株式会社丸井グループ 取締役上席執行役員CWO(Chief Well-being Officer)ウェルビーイング推進部長の小島玲子氏が登壇。丸井グループのウェルビーイング経営と「手挙げ」文化醸成について赤裸々に語っていただくとともに、実践に関わる多くの質問にお答えいただきました。今回のレポートでは、ウェルビーイング経営の背景と「手挙げ」によって実現したプロジェクト事例をお伝えします。

経営赤字脱却から取り組んだ
ウェルビーイング経営

丸井グループといえば小売業のイメージが強いかもしれませんが、収益の主体は「エポスカード」などのフィンテック。実は、1960年に日本初のクレジットカードを発行した会社でもあります。

丸井グループがウェルビーイング経営への変革を行ったのは、バブル崩壊、リーマンショックを機に直面した経営赤字がきっかけでした。「モノを置けば売れる時代」の終焉により、「自ら考え、自ら行動する」自律的な企業風土へと変えていくことが、経営存続に必要不可欠であったことから、丸井グループでは企業風土の変革に本気で取り組んできました。セミナーでは、どのようにウェルビーイング経営を実現してきたのか、社員の理解や参加をどのように促してきたのかなど、具体的な事例を交えながらご紹介いただきました。

企業文化改革に向けた8つの施策でエンゲージメント向上

2007年、丸井グループは新たな企業理念を設定。「人の成長=企業の成長」として、企業価値の根底を人的資本に置き、自主性・楽しさ・支援・本業を通じた社会課題の解決・価値の向上を重視する企業文化へ転換してきました。

企業文化の改革で行ったのは、次の8つの施策です。

1. 企業理念     2. 対話の文化    3. 働き方改革   4. 多様性の推進
5. 手挙げの文化   6. 職種変更異動   7. 二軸評価    8. 健康経営

1. 企業理念    5. 手挙げの文化
2. 対話の文化   6. 職種変更異動
3. 働き方改革   7. 二軸評価
4. 多様性の推進  8. 健康経営

これらの施策により、社員のエンゲージメントが10年間で大きく向上。社内調査では、「自分が仕事で何を期待されているかわかっている」という社員が8割、「職場で尊重されていると感じる」という社員が6割以上となりました。入社3年以内の離職率も、一般的に約3割と言われる中で、丸井グループでは約1割です。

2015年からは、企業ミッションに“すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会を共に創る”を掲げ、さらなる取り組みを続けています。

ウェルビーイング経営も
手挙げ方式で

丸井グループにおけるウェルビーイング経営の最大の特徴は、Well-being推進プロジェクトへの参加をはじめとして、グループ間職種変更移動や外部ビジネススクールへの派遣など、社内のさまざまな取り組みを手挙げ方式で行っていることです。

手挙げ方式の導入は、管理職が参加を求められる中期経営推進会議の様子がきっかけでした。参加している社員の様子に「やらされ感」があり、せっかく参加しても内容にあまり関心を持っていない姿が見られたのです。

そこで、会議の参加者を全社員対象の公募で選ぶことにしました。応募には無記名の論文を提出する必要があり、論文には参加したい理由、問題意識、具体的にどのようなことに貢献したいかなどを記載しなければなりません。参加者を公募制という手挙げ方式にしたことで、会議の質疑応答が活発化。会議の結果は参加者によって各現場で共有され、「次は自分も応募してみよう」という社員同士の刺激にもつながりました。

会議だけでなく、全社横断で実施される「Well-being推進プロジェクト」も挙げ方式で進めています。応募には800字の作文提出が必須。1期あたり約50名が選抜され、社員自ら、丸井グループが目指す健康とは何かのビジョンを構築し、就業時間中に企画・実施します。

Well-being推進プロジェクトの事例として多くの取り組みが紹介される中で、特に目を引くものが2020年のコロナ禍での取り組みと、2021年の取り組みです。2020年は初めて緊急事態宣言が出され、丸井グループは2カ月間の全社休業となりました。この年に入社した新人は、職場に馴染む間もなく孤独な日々を送ることに……。そこで動いたのが、Well-being推進プロジェクトチームだったのです。オンラインで「パーパスワークショップ」を開催し、お互いに働く意味を共有。孤独感の軽減とともに、前向きな姿勢を取り戻すきっかけをつくりました。

さらに、性別年齢に伴う健康課題やジェンダーギャップに関するイベントや、働く意味を高めるワークショップなど、さまざまなイベントも開発。イベントでは9割超のお客様から満足したという声が寄せられるほどの成功を収めています。

手挙げ方式の浸透に
管理職を巻き込む

しかし、手挙げ方式は最初からスムーズに受け入れられたわけではありません。施策の開始から15年をかけて少しずつ浸透、定着させてきました。

手挙げの文化醸成には、公募に応じる社員だけでなく、その社員の上司にあたる管理職からの理解が欠かせません。そこで、2016年からは役員・管理職を対象に、1年間をかけて取り組む「レジリエンスプログラム」を開催しています。

プログラムは、他社も交えた産業医チームが開発。「自身と組織のしあわせを高めることのできる、活力あるトップ層を養成する」ことを目的とし、一般社員が手挙げプロジェクトに参加することへの理解促進もできる内容です。本人・部下・家族からの360度評価も行われる点が特徴で、2月にキックオフ合宿へ参加し、翌年1月に最終発表会を行うスケジュールで実施されます。本レジリエンスプログラムへの参加も手挙げ方式ですが、部長職の9割以上が自発的に受講しているとのことです。

手挙げ方式の浸透は社員の主体性を向上させ、各プロジェクトへの参加、職種変更異動など、他の取り組みとの大きな相乗効果につながっています。人的資本を重視したこれらの施策より、2026年までの内部収益率(IRR)は11.7%を見込んでいるとのこと。今後は、失敗を許容し挑戦を奨励する「社会実験企業」となるべく変革を続け、「社会課題解決企業」を目指すと小島氏は語りました。

多くの気づきがあった質疑応答

参加者からも、講演が終わらないうちから、さまざまなご質問をいただきました。小島氏からのご回答では、手挙げ方式の導入について社内での理解を進める方法、職場単位でのプロジェクトによる雇用形態を問わない参加方式、「やらされ感」をなくすための対話の重要性といった大切なヒントが伝えられました。

終了後のアンケートからは、「弊社ならではの仕組みをこれから長期的に頑張って作っていきたいと思った」「やらされ感なく自らが主体性をもっていけるような促しや、ボトムアップでのウェルビーイングの推進はとても意義があると感じ、自社でも取り入れていきたい。」など、自社でも参考にしたいという声が多数寄せられました。

また、セミナー終了後のアンケートでは、96%が期待通り・期待以上と回答。多くの参加者が小島氏のお話から大きな気づきを得た様子がうかがえます。

今後も様々な業界から著名人をお招きし、皆様のビジネスのヒントをお届けします。詳細は、HR×LEARNING スペシャルセミナーの特設サイトにてご案内しておりますので、ぜひご覧ください。取り上げてほしいテーマやご要望、またどんな小さなお悩みでも、どんどんお寄せください。