「各業界で活躍されているあの人は何がすごいのか?」をコンセプトに、各業界の有識者から"成長の秘訣"や"仕事論"を赤裸々に語っていただくHR×LEARNING スペシャルセミナー。10月18日に開催したセミナーでは、「製造業」の分野からダイヤ精機株式会社 代表取締役 諏訪貴子氏を講師に迎え、2代目社長としての奮闘と社員育成について赤裸々に語っていただきました。質疑応答ではさまざまな質問が寄せられ、参加者の皆様も大きなヒントを得られたようです。今回のレポートでは、経営難からV字回復したダイヤ精機の経営改革と人材育成についてお伝えします。

経営難から脱却するためのIT化推進と人材育成に学ぶ

10月18日に開催したスペシャルセミナー第6弾の講師は、大田区のダイヤ精機株式会社2代目社長、諏訪貴子氏です。突然の社長就任と経営難からのV字回復、若手社員の定着と技術継承など、「経営難から脱却するためのIT化推進と人材育成」をテーマに、多角的な視点でお話しいただきました。

経営方針の見直しとIT化推進で乗り越えた経営難

諏訪社長は創業者であるお父様が急逝されたことで事業継承もままならず、専業主婦から突然、町工場の2代目社長に就任。多品種少量生産の「鉄磨き」で高い技術を誇るダイヤ精機を立て直すべく、さまざまな経営改革、そして人材育成に取り組まれ、多くの偉業を成し遂げてきました。

諏訪社長は人間の印象に残りやすい「3」という数字を使いながら、「3年間の改革」へ。まずは、2代目社長として、あらためて会社の理念や経営方針を社員とすり合わせることにしました。ポイントは、理念や方針は社員にわかるようにつくること、そして「これだけは守っていかなければならない」ことを外さないこと。ダイヤ精機の場合は「超精密加工を得意とする多能工集団である」ことを経営方針としました。

3年間の改革は、1年ごとにステージが上がっていきます。1年目に取り組んだことは、社員の意識改革です。挨拶や整理整頓といった基本教育とボトムアップで意見を集める意見集約型組織へ。2年目は、チャレンジの年として、ダイヤ精機の技術を最大限に生かせる設備を導入し、IT化の取り組みとして生産管理システムを刷新。3年目は、2年間の改革を維持すること、無駄を排除して業務を標準化することに着手しました。

他の中小企業に先駆けて取り組んだシステム刷新では、「生産情報を一元管理するため」という明確な目的を設定。旧システムの課題だった進捗把握や売上の見通し、パソコンに慣れていない社員でも使える操作性といった点を重視し、バーコードによる進捗管理と原価管理ができること、システムのサポートがあること、操作が簡単であることを要件としました。

システム検討と並行して諏訪社長による徹底した社員へのプレゼンと質疑応答を行ったこともあり、テスト開始から約3カ月という大企業並みのスピードでシステム移行を完了。経営者が果たすべき3つの役割、「目的を示す」「方向性を示す」「部下のモチベーションを上げる」を重視したことも成功の要因です。

システム導入後は進捗管理のレスポンスが向上し、製品の現在地を探す時間も削減。原価把握や工数管理が容易になり、コストダウンアイテムの抽出や、生産計画の明確化が実現されました。

人材確保・人材育成は新人の気持ちに寄り添う

もともとダイヤ精機は求人への応募が非常に少ない企業でした。しかし、職人の方々も年を重ね、若手への技術継承が課題となり、応募数を増やす必要がありました。そこで実践したのが、会社の主要事業をデザインに反映したパンフレットの作成です。パンフレットを開くと表紙と裏表紙が自動車のテールランプに見えるもので、会社説明会などにおけるコミュニケーションのきっかけに。さらに、会社のホームページは「どういう人たちと、どうやって働くのか」を印象づけるものにリニューアル。また、諏訪社長自身が応募者の視点で自社の求人票も見直し、専門的な言葉ではなく、自動車向け○○」などの求人票検索でヒットされやすい言葉を入れました。また、未経験者の採用、トライアル雇用制度の活用、インターンシップの受入れなども、積極的に開始しました。

やがて、ダイヤ精機は多くの若者が応募する人気企業に。次なる課題は、採用した人材の育成です。

ダイヤ精機の人材育成は、「新人が何を考えているか」という新人の気持ちに寄り添い行われます。まず、新人それぞれに「若手生活相談係」を決定し、1週間は机上教育を通して職業人としてのイロハを教えます。同時に入社からの1か月間は大学ノートで社長と交換日記を行います。交換日記はノートの書き方などでその新人の特性や感情がよく見えるため、それにあわせてアドバイスができるというメリットがあるとのこと。また、3カ月目までの期間にさまざまな機械の操作を一通り体験し、その人に合った担当機械を決定。少しずつ成功事例で自信をつけさせ、1年たった頃には自立と責任感の為、あえて特定の作業をその人だけに任せるようにしました。

仕事を楽しくするために「これだけは誰にも負けない」ものをつくること、常に「チャレンジ精神」と「目標」をもつことを伝え続けています。「失敗」という言葉を使わず、チャレンジしてうまくできなかったら「別の方法でチャレンジしよう」と、前向きに考えられるように後押しすることを意識しているとのことです。現在、ダイヤ精機の社員を見た方からは、とても楽しそうに働いていること、皆笑顔でいることを指摘されるそうです。それぞれの社員が責任をもち、売上を見ながら経営者のように考えて働いている姿。それは、諏訪社長が社員の方々とともに改革し、築いてきた仕組みと信頼の結晶と言えるでしょう。

コミュニケーションと社員に寄り添う大切さに気付くコメントが多く寄せられました

約350名の参加者からは、「エネルギーをたくさんいただいた」「社員と経営者の想い、方向性を一致させることや良く対話することなどがやはり重要であると感じました」「社員が皆、同じ思考になれるよう、より深いコミュニケーションをとっていきたいと思いました」「心と心をぶつけ合って、お互いを理解し、寄り添い合うことが根底として必要なことを痛感しました」「自発的な行動を促すことに難しく悩んでいたので、当社も真似てみたいと思います」などと、たくさんのコメントが寄せられました。また、セミナー終了後のアンケートでは、97%が期待通り・期待以上と回答され、多くの参加者が諏訪社長から刺激をもらった様子がうかがえます。

今後も様々な業界から著名人をお招きし、皆様のビジネスのヒントをお届けします。詳細は、HR×LEARNING スペシャルセミナーの特設サイトにてご案内しておりますので、ぜひご覧ください。取り上げてほしいテーマやご要望、またどんな小さなお悩みでも、どんどんお寄せください。