【連載】テレワーク下でも社員の力を伸ばす「タレントマネジメント」 第2回:見える化した"タレント"、その活かし方と伸ばし方とは?

published公開日:2020.06.30
近年、人材育成や人材採用の領域で注目されている「タレントマネジメント」。前回のコラムでは、タレントマネジメントの仕組みを解説するとともに、タレントマネジメントのファーストステップである、社員一人ひとりのタレントを的確に把握する方法や“見える化”の必要性をお伝えしました。今回は次のステップ、「タレント情報の活用・開発」について考えていきます。

タレント情報は活用してこそ意味のあるものになる

働き方改革やBCP対策としてテレワークを導入する企業が増加する昨今。テレワークならではの、「社員の状況・状態が見えない」ことから生じる課題の解消に、「タレントマネジメント」が効果を発揮することは前回のコラムでお伝えした通りです。実際に、テレワークの導入を機に、タレントマネジメントの必要性や重要性を再認識した方も多いのではないでしょうか。

前回は、効果的なタレントマネジメントを実践するために必要な以下の4つのステップのうち、①に当たる「タレントを的確に把握する」方法をご紹介しました。

  • ① 社員の能力やスキルを的確に把握する
  • ② 社員の能力やスキルに応じた仕事を割り振る
  • ③ 社員の能力やスキルを伸ばす
  • ④ ①~③がうまく機能しているかを振り返り、検討する

しかし、いくら的確にタレントを把握できたとしても、そのタレントを人材配置や人材育成に活用し、伸ばしていけなければ意味がありません。今回は、②と③に当たる「タレントの活用・開発」について、「現在に活かす」「将来に活かす」という2つの視点で考えていきます。

把握したタレント情報はどんな場面で活用できる?

まずは1つ目の視点である「現在に活かす」から見ていきましょう。タレント情報を現在に活かすことの目的の1つに、「現在(今期)の組織を機能させること」が挙げられます。これは簡単に言うと、タレント情報を「適切な仕事の割り振りに活用する」ということです。

例えば新しい組織を立ち上げる際、キーポストの人選は重要かつ必要不可欠なミッションであることは皆さんもご承知の通りです。この人選に活用したいのが、「重責経験の有無」「組織成果創出の実績有無」などのタレント情報です。何年も"同じ上司・同じ部下"のままということはまれですし、何より上司の記憶に頼ることの危険性は前回のコラムでもお伝えした通り。記憶や雰囲気などに頼るのではなく、タレント情報という記録を使うことで、適切な人選につなげることができるのです。

同じように、プロジェクト発足時のメンバー選定には、「同等職務経験の有無」といった過去の経験や「フォロワーシップ発揮度」などのデータを活用することが効果的です。また、メンバーの役割変更が生じた際は、「業務経験の有無」「同様業務での過去の成果」などが参考になります。このほかにも、タレント情報を活用できる場面は多数あります。「タレント情報を適切な人材配置に役立てる」、まずはそんな使い方から始めてみるとよいでしょう。

タレント情報を活用したストレッチアサインメントで能力アップ

また、もう1つの視点である「将来に活かす」ことの大きな目的は、「将来の組織貢献力を向上させること」です。つまり、若手・中堅社員の業務領域を広げたり、一段上への成長を図ったりと、タレント情報を活用して「一人ひとりの能力・スキルを伸ばす」ということです。

スキルアップを目的にストレッチアサインメントを課すという場面で考えてみましょう。例えば若手社員の場合、業務経験が浅いことから未経験業務への適性は判断しづらいものです。そこでタレント情報をもとに、苦手意識のある業務を割り当てる。それにより成長を促すといった活用・開発法が考えられます。中堅社員であれば、過去の業務の難易度や経験年数をもとにより難易度の高い業務を割り当て、スキルを伸長させていくことも可能です。

さらに、要職にある人、あった人の過去の業務経験や特性を把握しておけば、昨今課題になっているサクセッションプラン(=後継者候補の選抜・育成)にも活用できるでしょう。「自社ではタレント情報をどう活用できるのか」「どうやって伸ばしていくのか」、ここで紹介した内容を参考に検討してみてください。

タレントの伸長は人事と現場の両輪

2回のコラムを通じ、社員一人ひとりのタレントを把握し、タレント情報を見える化することの必要性、そしてタレント情報の活用・開発法をご紹介しました。また、テレワーク中の「社員の状況・状態が見えない」という課題を解消する手段として、タレントマネジメントが有効であることもお伝えしました。

今後もテレワークの実施が推奨される中、社員同士が顔を合わせる機会はますます減っていくかもしれません。しかし、直接コミュニケーションを取る機会が減ったなどという理由で、社員のタレントを把握できない、共有できない状態が続けば、社員に能力を発揮してもらうどころか、力を伸ばしていくこともできません。

また、社会環境、労働環境の変化だけでなく、労働者側の意識も変化し、「自身の能力を活かせる職場」を強く求める社員が増えている現状を考慮すると、いかに社員の能力を見いだし、その能力を発揮できる状況にするか、すなわち「タレントマネジメント」の実践は、企業にとっても働く側にとっても避けては通れない重要なテーマとなっています。

ただし、タレントマネジメントを実践するには、会社・人事部門だけではなく、それぞれの現場での取り組みが不可欠。現場での育成が機能していないと、いくら会社としての制度・体制を整えても、タレントマネジメントの実効性は上がりません。人事部門ができること(=タレントマネジメントの仕組みづくり)、現場ですべきこと(=タレントの活用・開発)の両輪で仕組みや機能を整備・改善し、より効果的なタレントマネジメントの実践につなげていきましょう。