【連載】テレワーク下でも社員の力を伸ばす「タレントマネジメント」 第1回: ファーストステップは"タレント"の把握、その目的と実践法を解説

published公開日:2020.06.23
在宅勤務やリモートワークといったテレワークの導入が進む昨今。直接コミュニケーションを取る機会が減り、社員の状況・状態が見えづらくなっている中、社員一人ひとりの力を“見える化”して伸ばす、「タレントマネジメント」の重要性がますます高まっています。今回は、タレントマネジメントとは何をすることなのか、なぜ必要なのかをお伝えするとともに、タレントマネジメントのファーストステップである「タレントを把握する」方法をご紹介します。

なぜ今、「タレントマネジメント」が必要なのか?

近年、社員一人ひとりの能力やスキル(=タレント)を把握し、そのデータを適材適所の人材配置や人材育成に活用して組織の力を向上させるため、「タレントマネジメント」に取り組む企業が増えています。その背景にはさまざまな要因がありますが、労働力人口の減少による採用難によって、"今いる"社員のスキルアップが不可欠となっていること、そしてビジネス環境の急速な変化によって、これまで以上に"非定型の業務"に対応できる人材が求められるようになったことなどが挙げられます。

加えて、働き方改革やBCP対策の一環としてテレワークの導入が急速に進む昨今は、社員同士が顔を合わせる機会が減ったことで、「任せた仕事の進捗状況が把握できない」、また進捗状況や働きぶり、業務への取り組み方を直接確認できずに「誰にどのような仕事を振ればいいのかわからない」状況に陥るなど、テレワークならではの課題も浮上し、改めてタレントマネジメントの重要性が注目されています。

とはいえ、「タレントマネジメントって何をすることなの?」「何から始めたらいいの?」など、タレントマネジメントの全体像をつかめていない企業も多いのが実情ではないでしょうか。まずは、タレントマネジメントとは具体的に何をすることなのか、その仕組みから見ていきます。

タレントマネジメントの仕組みとは?

当社では、タレントマネジメントとは「個人の持つ能力やスキル(=タレント)を見いだし、そのタレントに応じた仕事を割り当て、最大限にタレントを伸ばして、発揮させる仕組みを構築すること」と定義しています。つまり、社員一人ひとりのタレントを知り、活用・開発することで、適材適所の人材配置や人材の発掘、適正な評価、キャリアアップなどにつなげていくということです。その仕組みをステップごとに見ると、

  • ① 社員の能力やスキルを的確に把握する
  • ② 社員の能力やスキルに応じた仕事を割り振る
  • ③ 社員の能力やスキルを伸ばす

そのうえで、

  • ④ ①~③がうまく機能しているかを振り返り、検討する

というステップを踏むことで、効果的なタレントマネジメントを実現することができます。ファーストステップである「タレントを的確に把握する」方法から確認していきましょう。

タレントの把握は業務経験の把握から

タレントを把握するための情報源として、「人事評価結果」「目標達成実績」「配属履歴」といった過去のデータのほか、「本人の志向」「本人や上司が認識する強み・弱み」、そして実務に直結する「取得資格」など、様々な指標があります。

これら指標をもとに社員のタレントを把握することがタレントマネジメントの第一歩。ただし、ここで考えなければならないのが、そもそもこれらの指標で把握できる能力やスキルが、「何によって形成されたのか」ということです。

経営コンサルタントのマイケル・ロンバルドとロバート・アイチンガーの研究によると、ビジネスにおいて人は「70%を仕事上の経験から学び、20%を先輩・上司からの助言やフィードバック、10%を研修や書籍から学ぶ」といわれています。「7・2・1の法則」とも呼ばれ、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

この「7・2・1の法則」からいえるのは、社員のタレントを的確に把握するには、上で紹介したような指標を見るだけでなく、「どんな場面が成長のもとになっているのか」「どんな役割で力を発揮してきたのか」、つまりこれまでの「業務経験」を把握し、そこからタレントを見いだす必要があるということです。

業務経験の把握に欠かせないキャリアログシート

では、業務経験を把握するにはどんな方法があるのか。パッと思いつくのが、「(上司の)記憶」「職務経歴書」「人事の履歴」などではないでしょうか。これらの中には確かに多くの情報が詰まっているため、業務経験の把握に欠かせない要素であることは間違いありません。

一方で、例えば「記憶」に頼ってしまうと、上司個人ではわかっていても会社としてわからないという状態になることは目に見えていますし、中途入社者が提出する「職務経歴書」では入社後の業務経験までは確認できません。また、「人事の履歴」に、仕事の内容や役割、貢献度までを残している企業は少ないもの。そのため、社員一人ひとりが「どんなプロジェクトでどんな役割を担っていたかまでは把握できない」というお客さまの声が多く聞かれます。

そこで当社が推奨しているのが、「キャリアログシート」を使った業務経験の洗い出しです。キャリアログシートとは、これまでの業務内容や自己分析などを記録として残したもの。社員が担っている「メインの業務(通常業務)」のほか、全社横断のコスト削減プロジェクトといった「臨時的な業務」について、それぞれの業務内容と役割、そしてその結果を記録しておくことで、「どんな業務が得意なのか」「どんな貢献をしてきたのか」などを把握することができます。

併せて「自発的に取り組んだ業務」「自身の強み・弱み」「性格の傾向」「今後の志向」といった項目も残しておくと、情報源としての精度がより高まり、社員一人ひとりが「どんな場面で力を発揮できるのか」を特定することも可能になります。キャリアログシートはExcelなどの身近なツールで作成することができますので、まずは「記録に残す」習慣を徹底することをお勧めします。

"見える化"でタレント情報を活用できる状態に

業務経験を"残す"だけでも一歩前進ですが、この残した記録を、必要なときに必要な人が"見える状態"にしておくことも大切です。

例えば、プロジェクトの立ち上げに当たって、「〇〇を経験したことがある人」を探したい場合。いくら記録が残っていても、その記録を参照できる状態になっていなければ、結局は上司の"記憶"に頼ることになりかねません。しかし記録が見える状態になっていれば、その記録をもとに力を発揮できる人材を発見・発掘することが可能となり、テレワーク中の「誰に仕事を振ったらいいのかわからない」といった課題解消にもつながります。

見える化に当たっては、「人事部門が持つ情報」と「各部門が持つ情報」をバラバラに管理するのではなく、一元管理して両方の情報を参照できる環境を構築することがポイント。タレントマネジメントシステムなどの導入で一元管理するとなると一気にハードルが上がってしまいますが、「特定のフォルダで情報共有する」といった簡易的な方法でも効果は絶大ですので、キャリアログシートの運用、そしてその見える化にぜひ取り組んでみてください。

今回のコラムでは、タレントマネジメントの仕組みや、タレントマネジメントのファーストステップである、タレントを的確に把握する方法をご紹介しました。次回は、「タレントの把握」の次のステップ、「タレントの活用・開発」についてお伝えします。