経営戦略とは何か? ~企業が存続・発展し続けるために~

published公開日:2021.11.17
目次
企業が存続・発展し続けるためには経営戦略が必要不可欠です。自社経営の目的・目標を明確に設定し、目的・目標達成のために経営資源の分配を計画立案することが経営戦略です。本コラムでは、経営戦略の考え方や手順について、Apple社の事例などを用いて解説します。

経営戦略とは、企業が掲げる経営目標や経営目的を達成するために講じる戦略全般を指す言葉です。ほとんどの企業の経営目的は、企業の存続・発展となっており、そのためにとられる手段や目標は多岐にわたります。

また、「企業としてどうあるべきか」に対する戦略も経営戦略です。近年で言えば、SDGsやジェンダーフリー、ダイバーシティといった働く人や社会にフォーカスして、そこに貢献することを目的に掲げている企業も増えています。

経営戦略が求められる背景

経営戦略が求められるのは、企業同士の苛烈な生存競争が理由です。特に、中小企業のように限られた経営資源で生存競争に挑まなくてはならない企業ほど、戦略の重要性が高いといわれています。

企業は存続・発展し続けることが必要

2020年に中小企業庁が公表した「2020年版 中小企業白書」 によれば、2016年当時、日本国内に存在した約359万社の企業の内、99%にあたる358万社が中小企業とされています。

参照:中小企業庁「企業規模別企業数の推移」

そして、日本国内の企業数は年々減少傾向にあります。新規法人登記数は毎年約10万件程度あるため、10年経過すれば100万社ほど企業数が増えているはずですが、実際は減っていく一方なのです。これは、日本では毎年新しく設立される会社よりも、倒産・解散・合併などで無くなってしまう会社の方が多いということを表しています。

参照:中小企業庁「企業規模別企業数の増減率の推移」

また、こちらのグラフをみると、特に小規模企業の減少率が非常に高い状況だということがわかります。わかりやすく言えば、毎年10万人程度の社長が「これから価値のあるサービスや商品を世の中に出して、企業として成長・拡大していくぞ!」という意気込みと共に法人登記をするにもかかわらず、夢半ばで市場から撤退してしまっている企業がとても多いということを意味しています。

企業は、どんなに崇高な理念やポリシーがあっても、倒産してしまったら元も子もありません。企業経営をするうえで必要なのは、何はさておき「存続・発展し続けること」といえるでしょう。

存続・発展し続けるためには経営戦略が必要

どうしたら企業が倒産せずに存続・発展し続けられるのでしょうか。その答えは「経営戦略」にあります。戦略とは、読んで字のごとく戦いに勝つための策略のこと。経営戦略とは、「企業の目的を達成するための方針や計画全般」となります。

また、経営戦略を策定するうえで欠かせないのが、「経営資源」の分配です。言うまでもなく、企業が保有する経営資源は有限です。そのため、自社が掲げる目的によって、時には取捨選択し、適切に資源を分配していく必要があるのです。

つまり、経営戦略とは、まず自社経営の目的を明確に設定し、次にその目的を達成するために、自社が持ち得ている経営資源をどう分配していくのかをしっかりとプランニングすることといえるでしょう。

経営資源と経営戦略の目的

経営資源には「人」「モノ」「金」「情報」「時間」という5種類があります。競合他社との競争に打ち勝ち、市場の中で生き残るために、この5つの経営資源をいつどこに投下するかを決定すること。これが経営戦略を練る目的です。

経営に関する本を読んでいると「事業戦略」「人事戦略」などのように「〇〇戦略」という言葉がよくでてきます。これらは競合他社との競争に打ち勝つためにはどのような事業を展開していくべきなのか、あるいはその事業を展開していくためにはどのような組織体制を組み、どのような人物を要職に登用したら良いのか、などを考えることです。こうした言葉からも経営は競合との戦いの要素が強く、競争に打ち勝つための視点がとても重要だということがわかります。

限られた経営資源をどう活用するか

経営戦略では、様々な戦略に対して「人」「モノ」「金」「情報」「時間」の経営資源をどこにいつ投下するのかを決めます。ですが、特に創業間もない企業や小規模企業には、あらゆる場面に万遍なく投下するだけの十分な経営資源はありません。

経営資源が乏しい経営環境においては、以下の2点を経営戦略の軸とすることが、企業を存続・発展させ続けるために重要といえます。

  • (1)すべての経営資源を万遍なく投下せず、1点突破を狙い、集中して投下する
  • (2)競合ができるだけ少ない市場で戦う

iPhoneで有名なAppleは1点突破を狙って成功した

Apple社はiPhoneなどを売っている会社と思われがちですが、実は最も力を入れているのは「世の中で売れるIT製品を企画・開発する」ことです。

とにかく売れそうな製品を企画・開発して洗練されたデザインを施し、外部企業の工場で生産をさせ、各国の代理店に売らせることで、iPhoneなどを世の中に送り出しています。

もちろん一部直営店でIT製品を「売って」はいますが、その販売数量は出荷量全体のごく一部であり、直営店はどちらかというと製品を売るためではなく、最先端というイメージをユーザーに植え付けるブランディングのために存在しているといえるでしょう。そのブランド力が求心力となって、ユーザーの心を惹き付けています。

そんなAppleは、経営資源を限定することでブランドイメージを保ちつつ、企業を存続させているのが特徴です。

Apple社が急成長したのは、「企画・開発する」という機能に経営資源の大半を注ぎ込み、「生産する」「販売する」という機能は思い切って他社に委託・提携したためです。ほとんど経営資源を使わずに済むような経営戦略をとったことによるといえるでしょう。

また、Apple社創業者のスティーブ・ジョブズ氏が自宅ガレージで創業した際には、もちろん潤沢な経営資源など全くありませんでした。

彼はその当時まだ一般家庭に普及していなかったパーソナルコンピューターを世の中に送り出すという目的を達成するために、「Apple-I」を売って得た「金」のほぼすべてを優秀な「人(エンジニア)」を採用するために費やして、スティーブ・ウォズニアック氏やロナルド・ウェイン氏を仲間にし、「Apple-II」を企画・開発したのです。

ジョブズは、「1点突破を狙い集中して経営資源を投下できる」経営戦略の天才といえるでしょう。

競合が多いレッドオーシャンには飛び込まず競合ができるだけ少ない市場で戦う

レッドオーシャン、ブルーオーシャンという言葉を聞かれたことはありますでしょうか?

レッドオーシャンとは、競合がひしめき戦い続けて、流れた血で赤く染まった海のイメージで、「競合が多い市場」のことを指します。一方ブルーオーシャンとは、競合がいない(少ない)ため戦う必要がなく、透き通るような青い色をしていて遠くまで見通しがきく海のイメージで、「競合がいない市場」を指します。

ブルーオーシャンでビジネスをするための考え方は、マイケル・ポーター教授の「競争戦略論」が世界的に有名です。この競争戦略は、「競合他社との違い」を産み出すことで、生き残るという考え方です。

「同一の性能であれば他社より安い」あるいは「他社より優れている」など、競合他社との違いを徹底的に考え、その違う部分を強調するために経営資源を集中投下することで、競合に打ち勝っていくという理論です。差別化を図ることで、競争相手のいないブルーオーシャンでのビジネスを展開できる期待が高まります。

経営戦略の手順

経営戦略を練るための手順やフレームワークについて紹介します。

経営戦略を立てる際は、短期・中期・長期の目的を決めるところから始めます。ポイントは、いちばん大枠となる長期の目的から決めること。短期・中期はマイルストーンのような役割になります。

目的を決めたら、達成といえる目標値を定めます。売上や利益、シェア率、従業員数など、目的に合わせた目標を決めましょう。

目標を決めたら、次はどのように達成していくか・達成を阻む課題は何かを洗い出して、対策を立てます。この時、目的から外れていないか・費用対効果はどのくらいかなども改めて考えてみましょう。

最後に、決めた経営戦略を社員に共有して、今後期待する動きについて説明します。目的を共有することで、企業が一丸となって市場で戦っていけるようになるでしょう。

代表的なツール・フレームワーク

3Cや4P

利益増大やシェア率の向上を考えた際、改めて自社の商品やサービスを見直す必要があります。その場合には、「自社商品・サービスの強み」のみを考えるのではなく、「そのサービスを利用してくださる顧客企業やユーザーのニーズ」をしっかりと捉えなおすことから始めましょう。

前者はプロダクトアウト、後者はマーケットインの考え方といいますが、マーケットインの考えをしなければ、欲しいと思わない市場にプロダクトを放出することとなり、どの市場でも勝ち続けることはできないでしょう。

マーケットインの考え方をするためには、

「Customer(市場/顧客)・Company(自社)・Competitor(競合)の3C」によってビジネス環境を分析し、
さらに「Product(製品/サービス)・Price(価格)・Place(立地/流通/販路)・Promotion(販促/広告)の4P」

という軸で販売に影響を与える要因を競合と比較したうえで販売戦略を立案する必要があります。

つまり、自社ではなく顧客を主体者としてとらえ、その顧客をとりまく環境や競合のアプローチ方法などを分析することで、勝てる戦場を探していくのです。

経営戦略を立案する際は、世の中の動き、顧客の志向性、環境の変化など、あらゆる動きをタイムリーに掴み、検討材料としていくことが必要です。そのためには机上でうなっているのではなく、アンテナ高く社内外の様々な情報を収集できるようにすることも重要といえます。

SWOT分析やMECE

SWOT分析は、以下の要素を洗い出すためのフレームワークです。

  • 強み=Strength
  • 弱み=Weakness
  • 機会=Opportunity
  • 脅威=Threat

内部環境の強みと弱み、外部環境の機会と脅威のそれぞれを掛け合わせて考えられる事項を洗い出します。例えば、独自の技術で汚れを落とす洗剤が商材の場合、強みは他社にはない洗いあがりを実現できることです。ですが開発コストがかさんだ結果、販売価格が高いというのが弱みになります。

機会は、その商材が売れる状況を示し、脅威は競合製品や洗剤成分に対する消費者のマイナスイメージなどになります。それぞれを掛け合わせることで、利益を出せる環境やリスク要因などがはっきりし、負けにくい戦略が立てられるという訳です。

こうした要素を抽出する際は、MECEというフレームワークも合わせて活用しましょう。MECEは簡単に言えば「漏れなく・ダブりなく」という意味。同じような内容が散らばっていないか、吸い上げ切れていない情報は無いかを確認する際に用います。

経営戦略の失敗例

よくある失敗の例が、薄利多売に陥って経営が悪化することです。いわゆる価格競争に突入してしまうと、資本力の無い中小企業は大企業にはかないません。

「他社より安い」を強調することは、競合が自社よりも価格を下げてきた際の対抗策が「さらに安くする」しかなくなってしまいます。価格を下げれば利益率が下がり、赤字経営に陥るリスクが高まるのです。

そうならないためにも、価格に依存しない自社の魅力を認識し、差別化した戦略を立てる必要があります。そうすることで、価格競争が主となっているレッドオーシャンでの苛烈な戦いから脱することもできるでしょう。

また、事業規模の拡大もリスクのある行為です。例えば、ヒット商品が生まれたから生産ラインを増設したが、瞬く間にブームが去って設備投資のコスト回収が難しくなった・店舗展開を急いだが人材育成が追い付かずにクレームが多くなり、全店舗で客足が遠のいてしまった、などが失敗例といえるでしょう。

規模の拡大が悪い訳ではなく、冷静に市場を見て判断することはもちろん、かけるべき時間や手間はきちんとかけるといった対応が必要です。

経営戦略を立てて企業を存続させよう

経営戦略は経営層だけに求められるものではありません。部門・部署・支社・支店・チームの管理・運営においても経営的視点を持つことや、目標達成のために戦略を立てることはとても有効です。この機会に経営戦略の立て方や考え方を改めて学んでみませんか。「ご自身や役員、管理者と戦略を立てていてもうまくビジョンが見えない」「5年先、10年先、30年先といった長期スパンで戦略を立てるのが難しい」といったお悩みに、ALL DIFFERENT株式会社の経営戦略概論がお役に立つはずです。

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また、戦略を練る・部下に伝える際には管理職や経営幹部の手腕も必要です。より強固な組織にしたいとお考えの方は、下記の研修もぜひご利用ください。

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