フォローを起点に考える、新卒社員の離職を防ぐ3つのポイント ~キーワードは「関係性」「安定」「成長」~

published公開日:2021.11.09
目次
新卒社員がまた辞めてしまった…。皆さんも、そんな経験があるのではないでしょうか。採用難といわれる今の時代、コストと時間をかけて採用した新卒社員の早期離職は非常に大きな痛手となります。
本コラムでは、“フォロー”の観点から新卒社員の離職を防ぐポイントを考察し、そこから見えた3つの解と具体策をご紹介します。

今行っている新卒フォロー、離職防止には不十分かも?

少子高齢化などを背景に人材不足感が高まり、採用競争が激化する昨今。離職率の改善が重要な経営課題となり、多くの企業が職場環境や労働条件の見直し、また教育体系の見直しなど、様々な取り組みを進めています。特に新卒社員の場合、入社後のミスマッチによる早期離職を防ぐため、内定段階から先輩社員や同期との懇親会、人事担当者や上司・先輩との面談、
モバイルラーニングといった学習機会の提供など、内定段階からフォロー施策を充実させている企業も多いでしょう。

しかし、いくら内定期間中や入社後のフォローを充実させたからといって、「新卒社員が会社や仕事に対して求めていること」を提供できなければ、離職の防止にはつながりません。
まずは、離職に至った要因を把握する。そのうえで、それら要因をつぶせるようなフォロー施策を実践することが必須です。

新卒社員の「不満・不安」から見えた、離職を防ぐ3つのキーワード

では、新卒社員が離職を考える、あるいは離職を決めるきっかけは何なのでしょうか。「会社を辞める」という大きな決断を下す背景には必ず、何らかの不満・不安があるものです。
まずは、新卒社員の"本音"や"気持ち"を確認してみましょう。

当社が2021年度入社の新卒社員1,004人を対象に行った調査*1によると、内定当時、8割近くの新卒社員が、学生から社会人へのシフトに対して「不安」を抱えていたことが明らかになっています。その不安の中身はというと、「自分の能力で仕事についていけるか」「しっかりと成果を出せるか」「職場のメンバーとうまくやっていけるか」がトップ3となり、能力・スキルや人間関係の面での不安が大きいようです。

一方、実際に離職に至った理由はというと、民間企業の調査結果などを見るとやはり、人間関係や労働時間、仕事内容、
給与・待遇への「不満」が多く、これは皆さんの感覚とも一致しているのではないでしょうか。
また、当社のお客さまに話を伺うと、「キャリア成長が望めない」「会社の経営方針や社風が合わない」「会社の将来が不安」と感じて離職に至るケースも多く、中には「入社前に聞いていた話と違う!」という理由から、退職してしまった新卒社員もいるようです。

これら不満や不安から見えてくるのが、「関係性」「安定」「成長」という3つのキーワード。つまり、周囲との良好な"関係"を構築する、将来性があり"安定"した会社であると認識してもらう、"成長"を実感してもらうことで、離職を考えるきっかけを取り除いていく。そんなフォローを実践することが、新卒社員の離職防止につながるといえるのではないでしょうか。

ここから、「関係性」「安定」「成長」の3つのキーワードをもとに、離職防止につながる具体的な取り組みをご紹介しますので、ぜひ今日から取り組んでみてください。

*1:ALL DIFFERENT株式会社 「内定者意識調査」

離職防止の3つのポイントとその具体策

ポイント1:周囲との良好な関係を構築する

まず1つ目のキーワードである「関係性」から見ていきます。
これは、コミュニケーションを通じて良好な人間関係を構築することで、人間関係の不満・不安という離職要因を取り除くということです。しかし、コロナ禍でテレワークが普及した今、対面でのコミュニケーションが減ったことで、意図通りに伝わらない、必要なときに相談ができないなどコミュニケーションをとる上で悩まれている新卒社員の方も多いのではないでしょうか。
コミュニケーションエラーが続いてしまうと、上司や先輩に対する不信感が募ったり、仕事に対するモチベーションが下がったりと、離職を誘発しかねない状況になることは容易に想像できます。

それに、よくよく考えてみると、テレワーク中でなくても「何かあったら相談して!」「わからないことがあったらいつでも聞いて」といわれて、気軽に相談・質問できる新卒社員はそう多くはないはずです。

そこで実践したいのが、コミュニケーションや報連相の"場"づくりです。それらの場を意図的に設け、新卒社員の思いや考えをきちんと把握・理解し、良好な関係の構築につなげていく必要があります。
テレワーク中であれば、他人の状況が把握しづらい、話しかけづらいといった状況を解消するため、朝礼・夕礼を日課にする、オンライン会議ツールを使って顔が見える状態で対話するといった取り組みのほか、雑談チャットを設置したり雑談の時間を設定したりと、特定の業務によらない情報共有の場をつくることが有効です。また、報連相の場は会議招集をしてなんとなく集まるのではなく、「何を・誰に・いつ・どのように」報連相するか、中身や手段までを具体的に明示し、すれ違いや手戻りをなくすことも大切です。

<ワンポイントアドバイス>
これら場の設定を、上司・先輩個人のやる気やモチベーションに頼ってしまうと、部門間の差が出たり、なかなか進まなかったりと、うまく回らなくなることが想定されます。個人に任せるのではなく、会社や部門全体として"場づくり"の仕組みを整えることも忘れずに行いましょう。

ポイント2:安定した会社であると認識してもらう

2つ目のキーワードである「安定性」。
これには、先述した離職要因のうち、給与や待遇、経営方針に対する不満・不安といった要素が絡んできます。これら不満・不安の解消には、新卒社員に「自社は将来性があり、安全・安心・安定した会社なんだ」と認識してもらうことが不可欠
経営ビジョンや人材ビジョン、またそれを実現するための事業構想、簡単にいうと「自社がどこに向かっているのか」を新卒社員がイメージできるようにかみ砕いて具体的な例も挙げて説明し、安定した会社であると認識してもらうことで、離職の要因を排除する。これが第2のポイントです。

しかし、どんなに素晴らしいビジョンや構想があっても、それがきちんと伝わらなければ意味がありません。
例えば、「お客さま第一」「革新的なサービスを!」といった抽象的なビジョンでは、その指すところが何なのか、具体的な内容をイメージできません。
一方で、「今日のお客さま訪問は10件」「今期の売上100億円」というように、目先の"目標だけ""数字だけ"を伝えるのもNGです。広すぎる情報と狭すぎる情報の両極端になり、その"間"が抜けてしまっては、新卒社員が理解することは困難。「会社単位」→「部門単位」→「個人単位」といった具合に、段階的に落とし込んで伝え、イメージしやすい状態に持っていくことが重要です。下記の取り組み例も参考に、ぜひ実践してみてください。

<取り組み例>

  • 会社単位:人事評価項目に「自社の経営ビジョンの理解」を取り入れ、定期的に説明する機会をつくる
  •    
  • 部門単位:部門ごとの会議で、部門長から会社のビジョンや今後の事業構想について定期的に伝える機会をつくる
  •    
  • 個人単位:「自社でどのようなキャリアを描いていくか」というキャリアについて考える機会をつくる

また、「こんな人材に育ってほしい」という、明確かつ具体的な人材ビジョンを設定しても、1年目の新卒社員が自分事として捉えるのは難しいものです。人材ビジョンを設定・共有する際は、新卒社員でも「イメージできるか」「現実的に感じるか」、いってしまえば見た瞬間、聞いた瞬間に"なるほど!"と思えるものになっているかを、今一度確認していただきたいと思います。

ポイント3:成長を実感してもらう

そして3つ目が「成長」です。
新卒社員に限らず、人は成長を実感することで、やりがいを感じるもの。やりがいを感じれば、閉塞感やマンネリから脱却でき、「辞めたい!」という思いがなくなる。つまり、新卒社員に「成長を実感してもらうこと」も、離職を防ぐための重要なポイントといえます。

しかし、"成長"という言葉は非常に抽象的で、「何をもって成長というの?」と思う方も多いでしょう。
本コラムで指す成長とは、ずばり"変化"のこと。「半年前と比べてここが変わった!成長した感じがする」というように、
自身の変化に気づくことが、成長を実感することと捉えることができます。

とはいえ、全員が自身の変化に自ら気づくことができるかといったら、そうではありません。「最近ミスばかりだな...」と失敗だけに目が行ってしまい、落ち込んだ経験は皆さんにもあるでしょう。新卒社員なら、なおさらです。当然、ミスを繰り返さないよう、振り返りやそれを踏まえた対策を一緒に考えることも必要ですが、「ミスは気をつけないといけないけど、報告の仕方はずいぶん変わったね。よくなったよ!」などと声をかけ、変化に気づかせることも大切です。

<落とし穴に注意>
ここで頭に入れておかないといけないのが、変化を"気づかせられない"ケースもあることです。
上司や先輩が、「一人前になったかどうか」など、漠然としたモノサシしか持っていないと、大きな変化にばかり気を取られ、小さな成長を見落としてしまいます。実際には成長しているのに、上司も本人も気づかずに時が流れてしまう...。
そうした事態をなくすためにも、定期的に1on1ミーティングを実施する、また上司だけで対応するのが難しい場合は、メンター制度やブラザーシスター制度を活用するなど、変化、成長を確認し合う場を強制的に設けるとよいでしょう。

まとめ

今回のコラムでは、「関係性」「安定」「成長」をキーワードに、新卒社員の離職防止に向けた取り組みについて考えてきました。新卒社員の離職率はよく、「3年で3割」といわれますが、皆さんの会社の状況はいかがでしょうか。

厚生労働省の調査*2によると、2017年3月に大学を卒業した新卒社員の3年以内離職率は32.8%。しかし、高卒や短大卒で見るとその数字はぐっと上がり、それぞれ39.5%、43.0%に。また、業種や企業規模によっても大きな差があり、中には「3年3割どころではない...」という企業もいらっしゃるでしょう。

これを高いと捉えるか低いと捉えるか、当然企業によって考え方は異なりますが、冒頭でもお伝えした通り、コストと時間をかけて採用した新卒社員を、会社への不満・不安といったネガティブな理由で失うのは絶対に避けたいところ。
今回ご紹介した3つのポイント全てをいきなり実践するのは難しいかもしれませんが、最後にご紹介した1on1ミーティングやメンター制度などは、新卒育成の一環としてすでに取り組んでいる企業も多いでしょう。これはつまり、今ある育成施策を活用・進化させていくことでも、離職防止につなげられるということです。

また、周囲のフォローが不可欠なのはもちろんのこと、内定者教育や入社時研修、配属後のOJTやフォローアップ研修など、様々な施策を通じて新卒社員一人ひとりのスキルアップを図り、成長を促すことも大切です。
当社では、内定者・新卒社員を対象とした各種研修や教育コンテンツを提供するだけでなく、OJTなどを行う上司・先輩側の育成、また人材ビジョンや人材育成計画の策定などもお手伝いしています。本コラムの内容を実践していくうえで困ったことが出てきたら、お気軽にご相談ください。

*2:厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)